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何かが足りない定期更新ゲーム雑記中心。 イタい? 中2病? 褒め言葉です。
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 朝になれば陽が登り、夜になれば月が輝く。
 この理は、遺跡島においても例外ではない。

 さて、では未来からやって来た九郎は島の夜を一体どこで過ごしているのだろうか。
 答えは意外でもなんでもなく、偶然見つけた空き家に勝手に住み着いているというものであった。今の彼女は文無しなのだから無理もない。
 ガスも電気もなかったが、幸いにも水道は生きていた。家具や小物はベッドくらいしかなかったが、仮に本来の住人が居たとしても、その時は素直に謝ればいいと九郎は考えている。
 紛れもない不法侵入ではあるのだが、九郎はその環境に不満の欠片も感じてはいなかった。寝床が確保できただけでも充分だということだ。


 そんな九郎は今夜もベッドの上で全裸になってぐっすりと――というわけではないようだった。
「ぅ……ぁぅ……ふ、ぁ……」
 うなされている――にしては艶のある寝言が口から漏れ、無意識のうちにしっぽがばたばた動き、掛け布団を跳ね除ける。
 閉じ込められていた熱気が拡がり、九郎自身の匂いが木の香りに仄かに混ざる。もちろん、それがどんな匂いであったか確認できる者はいない。
「んむぅ……ん、んん…………ん、くぅ……ふぅ……」
 ごろごろと寝返りをうち、ふとももをくすぐったそうに擦り合わせ、耳は何かに反応しているかのようにぴくぴく動き続ける。
 夜闇の中にもぞもぞと布と肌と毛が擦れる音が響き渡り、子猫が水を舐めとるような、粘性のある小さな水音を覆い隠していた。
 どこか苦しそうな九郎の寝顔には、お風呂上りの火照った体のように朱が上っている。一体どんな悪夢を見ているのか。それは彼女自身にしかわからない。
「ぁ、ん…………ん、んんっ!」
 九郎の寝返りは徐々に激しくなる。まるで何かから逃れるかのようにしっぽが激しく布団を叩いた。
 そして、耳の先から尾の先端までをぴんっと強く力が籠もったかのように、くっと背を反らすように身体が動いたかと思うと――
「……! ……! ん、ぃぅ……っ…………ふぎゃ!?」
 とうとうベッドからずり落ちた。
「んなぁっ!? な、なんですか敵襲ですか!?」
 さしもの九郎も冷たい床に叩きつけられ、あっという間に夢から覚めた。
 とはいえ半分寝惚けたままに、飛び起きその手に青白い炎を灯す姿は全裸なのも相まって、新手の変質者のように見えなくもない。
 ぼうっと薄明かりに照らされる部屋の中で、春先のまだ冷たい空気がゆっくりと九郎の意識を覚醒させていった。
(……誰の気配も感じませんね。……いたた)
 床に膝蹴りを喰らわせた脚をさすりながら、九郎はベッドの縁にこしかけた。
 そのままぼんやりとしていると、夢の世界が徐々に遠ざかっていく。近づいてきたのは現実の感触である。主に、ふとももの間の奥の。
「……!? な、なななななっ! なんて夢見てるんですか私は!」
 痺れに似たその感触に、今しがたまで夢の中で自分がされていた行為を思い出し、九郎はお世辞にも柔らかいとは言えないベッドにぼふぼふ頭を叩きつけた。
(なんで二日続けてあんな夢を……ストレス溜まってるんでしょうか、私……)
 やがて疲れて、九郎は猫が伸びをするようなポーズのまま固まった。そしてふと、今日が何の日であったかを思い出す。
(そういえば今日は、最初の闘技大会が終わった日でしたよね……って、ああああああっ! まさか、今日はっ!)
 自分の他にはただ一人しか知らない、九郎にとって特別な意味のある日。それが今日この日――或いは既に日付は過ぎているのかもしれない。
(うぁー……そのせいで私、あんな夢を見てしまったんでしょうか……)
 うっかりと思い出してしまった九郎の身体に再び熱がこもりはじめる。
 どうやら彼女の夜は、今日もまた昨日のように長くなりそうだった。



   -*-



 一方その頃、闘技大会を戦い抜いた源九郎は、当然のように布団の中で横になっていた。
 しかし眠ってはいない。とてもではないが、眠れるような状況ではなかった。
(はぁ……大会じゃあんまり活躍できなかったなぁ)
 今までの戦いが次々と脳裏に浮かぶ。そのほとんどが、自分がお荷物になっているものだというのだから、九郎にとっては心苦しい。
 訓練と実戦の違い。己の未熟さ。自分の知らない戦い方。そのどれもを思い知らされ続けた戦いは、しかし無駄であったとは彼女は思わなかった。
(父上を見返すためにも、もっともっと力を身につけないといけませんね)
 九郎に挫折している時間はない。この程度の事では挫折など不可能なほどに、彼女は昔から壮絶な体験をしてきたのである。
 明日は今日よりも強い自分になるようにと、決意新たに九郎は夢の世界へ旅立とうとした。

 ――が。
(やっぱり、眠れるわけないですよねー)
 ぼんやりと目を開く。
 むずむずするおしりとしっぽを撫でながら、九郎は深いため息をついた。
(身体は疲れてるはずなのに、困ったものです)
 というのも、九郎は今日、二度ほど疲労で昼寝をしていたのである。いつも通りの時間に寝ようとしたところで、眠れるものではない。
 いつも以上に激しく動き回ったおかげで全身には疲労が溜まり、大会で傷を負った肩や、下腹部には未だズキズキした痛みが残っているようだ。
(……睡眠薬、貰えませんかね)
 うつ伏せになって枕の匂いを吸い込みながら、九郎はぼんやりと今日一日を振り返り続けた。
(…………でも、これで私も少しは父上に近づけたのかな)
 どうやらこの夜は、九郎にとってとても長い夜になるようであった。



   -*-



 遺跡島の奥深く。未だ誰も到達していない深層の領域。
 地上と何一つ変わりないはずのその場所に、不思議なものが出来ていた。隕石が落下したかのような、巨大なクレーターである。
 ボウルの形に抉り取られ、素肌を晒した大地のその中央に、仰向けになって外と変わりない青空を見つめる者がいた。
「まずいぞ、こりゃあ……」
 大の字になって、土塗れの自慢のしっぽを扇のように広げた玉藻は、もちろん日向ぼっこを楽しんでいるわけではない。動きたくとも身体が動かないのである。
 小さく口にした言葉には、普段の玉藻を知る者にとっては信じられないことだが、焦りの色が混ざっていた。
 “消し飛んだ”右脚の再生にはそう時間がかかりはしない。しかし消耗し切った力を回復するには、半日程度費やしても全く足りるものではない。
(油断したつもりはない、が……なんだあいつは? 僕が負けた、だと?)
 一昼夜戦い続けた狐面の姿が青空にふっと浮かぶ。
 徹底的に破壊することを目的とした玉藻の術を平然と耐え、彼女にかつてないほどのダメージを与えた狐面は今――
(僕より先に死んでくれるなよ、ジュリア……)
 この世界に来ているはずの娘を想い、力の回復に専念するため玉藻は静かに目を閉じた。
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