何かが足りない定期更新ゲーム雑記中心。
イタい? 中2病? 褒め言葉です。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
一時間が過ぎる頃には、書庫の床に目立つほこりは残っていなかった。
はたきを振るい、モップをかけて、溝の汚れを取り除き……本棚の整理はまだまだこれからといったところだが、一通りの掃除が完了したということで、ジュリアは休憩をとっていた。
――夕方までに終わりますかねぇ……
床にごろんと転がって、人前では滅多に見せないだらけ姿でしっぽを振る。
長時間の集中で火照り気味の体を、冬の冷気が伝わった木の床板に擦りつけ、ふやけた表情<かお>から「にへー……」とだらしない声が漏れる始末だ。
――しっかしコレ、どうしたものでしょうか。
そんな彼女の目下の問題は、まさに今、目の前にある、掃除の途中で回収した謎の物体の山であった。
それは先端に地球儀のくっついた金属バット。まだ暖かさの残る食べかけのうどん。怪しげな液体が混入した砂時計。などなど、どれもこれもが共通性の欠片もないガラクタである。
なぜそんな物が書庫に転がっているのか。その理由はジュリアも把握しきれてはいないのだが、書庫のどこかが探知不可能な次元のはざまに通じているのが原因であるらしい。
そもそもこの地下書庫のスペースは、もともと狭かった地下室の空間を“父上”が無理やり広く“歪めて”確保したものなのだ。歪められた空間に多少の矛盾や裂け目があってもおかしくはない、と“父上”は語る。
不思議のダンジョンと化している倉庫ほどではないにせよ、そういった事情からこの書庫も結構なデンジャーゾーンなのである。
以前、ジュリアが今回と同じように書庫の整理をしていた時には、本棚に目を通していた分身の一つがいきなり行方不明になってしまったことがあった。
ジュリア自身ですら、いつ・どこでがわからないほど唐突に、跡形もなく消えてしまったのである。
もっとも、次元のはざまに飲まれたところで死ぬわけではない。
過去にも何度か来訪者が神隠しに遭っているが、そのどれもが“父上”の怪しげな能力――空間跳躍に遠隔探知の類らしい――によって救助されている。
被害者は皆、失踪前後の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっているため、根本的な解決には至っていないが、刺激を求める人外種族の方々にはむしろ幸運なアクシデントと見なされているため、あまり問題にはされていない。
問題となるのは逆のケースなのだ。そう、今回のような。
消えるものがあれば、逆に出てくるものも当然ある。
それが無害な代物であれば良いのだが、以前ジュリアは次元のはざまから漂着し、スイカに擬態して書庫の床に転がっていた謎の化物を拾ったことがあった。
せっかくなのでと台所に持って行き、さぁ割ってみましょうとしたところで正体をあらわした“ソレ”と一戦交え、台所を半壊させたのは彼女のトラウマになっている。
――焼却処分が妥当でしょうね……おや?
不燃物、或いは火薬など燃やすと逆に危険なものが混ざっていないかと、慎重に漂流物の山を漁りはじめたジュリアだが、ある物に視線を引かれ、その手を止めた。
ジュリアが手に取ったそれは、古ぼけた一冊の日記帳だった。
どこかの本棚から落ちたのか、もしくは来客の忘れ物か。それとも――
薄汚れた表紙を見詰めていたジュリアは、消えかかってはいるが、文字が書かれていることに気がついた。
そして、息を呑む。
「これは……」
どうやらその日記帳は、彼女の“父上”に送られたもののようだった。
もちろん、同名の他人に対してなのかもしれない。ジュリアの“父上”の名前はそれほど珍しいものでもないのだ。
しかしジュリアは、何かに誘われるように日記帳の表紙を捲った。これは“父上”に関わりのあるものだという、何の根拠もない予感とともに。
その冒頭は、どこか遺書めいた言葉の綴りからはじまっていた。
(つづく)
PR
Comments to this article.