何かが足りない定期更新ゲーム雑記中心。
イタい? 中2病? 褒め言葉です。
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「そういや自己紹介がまだだっけか? 僕は玉藻。親しみを込めてお玉ちゃんって呼んでいーぜ!」
少女が名乗った玉藻という名。それはかつて二つの国を滅ぼした、最も邪悪にして強大なる妖狐の名。
まさかお前が、と聞いてみたら鼻で笑われた。
「んなわきゃねーよ。そんなエラい狐の名前なんだ。そのご威光にあやかって、狐の間じゃ今では珍しくもなんともないぜ」
「そういうものか。……ん? お前、狐の妖怪だったの?」
「そうとも僕は見ての通りのお狐様さ! こんこん、こーん!」
ふわりと宙に舞い上がり、玉藻はすとんと私の目の前に着地した。
当然だが朝に出会った時とは違い、今度はちゃんと服を着ている。
と言っても腰にも満たない、やたらと派手な刺繍のある緑色の着物を一枚羽織っただけで、他には何も身につけてはいない。
惜しげもなく露出した素肌には汚れ一つなく、絵で見た天女のようだった。
「んで、こんな所に一人でやって来るおねーさんこそ何者なんだい?」
らんらんと輝く紅玉のような瞳が間近に迫る。
気恥ずかしさから私は顔を逸らして答えた。
「私の名前は早苗。……こっちこそ聞きたい。お前がなんでこんな場所にいる?」
「お前、じゃなくて名前で呼んでくれないかなぁ早苗おねーさん」
馴れ馴れしい笑みを浮かべて、玉藻はするりと私の腕にしがみつく。
その身体は私よりも小柄で、暖かい。しかし腕に込められたその力は意外と強く、名前で呼ぶまで離してくれそうにはなかった。
「……玉藻」
「おーおー素直でいいね! 次は笑顔で玉藻ちゃんと呼んで――冗談だから睨むなよー!」
「別に睨んでない。私は元々こういう顔」
「笑えよ早苗おねーさん!」
頬を両手で挟まれて、むにむに押し上げられた。
たったこれだけの会話なのに、とても疲れる。一体なんなんだろう、こいつは。
……なんなんだろう。心の中のつぶやきに、「まさか」という疑問が浮かび上がった。
「まさか、お前が疫病神なのか?」
玉藻は私の腕にしがみついたまま、きょとんと首をかしげた。
「あっれー何その言い方。もしかして僕、喧嘩売られてんのかなー?」
「……やっぱりそんなわけないか。お前みたいなのが神様だなんて」
心底私の言葉の意味がわかっていない様子の玉藻に、私は一から説明した。
里のこと、慣習のこと、巫女のこと、疫病神のこと――
ちなみに玉藻は聞き手としては最悪だった。
何度も話を遮られ、身体を撫でまわされ、興味なさそうに変な踊りを踊られたりで、何度その無駄に多いしっぽをひっこ抜いてやろうかと思ったことか。
ともあれ努力の甲斐あって、玉藻は事情を理解したようだった。
顎に手をあて、うーむと唸りながら、輝く九つのしっぽをはたきようにぱたぱたと上下させる。
何か考えているようだったが、その内容までは想像できない。
しばらく待つと、やがて玉藻は口を開いた。
「なーるほどね、でもそりゃ多分もう無理だぜ早苗おねーさん」
「無理? 何のこと?」
玉藻との会話でどっと疲れた私は、その言葉の意味を理解できなかった。
「何がって聞かれりゃあ、そりゃ“全部”だ。まぁそうだな――ところで僕の後ろを見てくれ、こいつをどう思う?」
どこか愉快そうな声色で玉藻が指差したのは、出会った時に立っていた、よくわからない炭のような物体の山。
「どうって言われても、ゴミの塊にしか見えない」
薄暗がりの中では、“それ”が一体何なのか、私には見当すらつかなかった。
正直にそう応えると、玉藻はけらけら笑って言った。
「ヒャッヒャ! ゴミの塊か! そりゃ傑作だぜ早苗おねーさん!」
玉藻がぱちんと指を鳴らした。
するとそれまで洞窟の中をゆらゆら揺れていた無数の炎が、光に群がる虫のように、私たちの周りに集まってきた。
一つ一つは淡い光が幾重にもなって、私が言った“ゴミの塊”を照らし出す。
蛇だ。無数の蛇が死んでいる。
一匹二匹どころではない。数十、いや数百にもなろうかという程の数の蛇が死んでいた。
よほどの炎に包まれたのか、その大半は炭化して、辛うじて蛇だということだけがわかる。
いや、蛇だけではない。百足や蜘蛛といった毒虫たちも、蛇と同様黒焦げになって死んでいる。
これは一体どういうことなのだろうか。
戸惑いながらも私は考えた。思い当たるようなことは何も――いや、一つだけある。
その時私はどんな表情をしたのだろうか。私の顔を覗き込む玉藻は、にやりと笑って口を開いた。
「この僕に喧嘩を売るたぁ、度胸だけは一流だったぜ? この“神様”はさァ」
神は死んだ。どうやらそういうことらしい。
少女が名乗った玉藻という名。それはかつて二つの国を滅ぼした、最も邪悪にして強大なる妖狐の名。
まさかお前が、と聞いてみたら鼻で笑われた。
「んなわきゃねーよ。そんなエラい狐の名前なんだ。そのご威光にあやかって、狐の間じゃ今では珍しくもなんともないぜ」
「そういうものか。……ん? お前、狐の妖怪だったの?」
「そうとも僕は見ての通りのお狐様さ! こんこん、こーん!」
ふわりと宙に舞い上がり、玉藻はすとんと私の目の前に着地した。
当然だが朝に出会った時とは違い、今度はちゃんと服を着ている。
と言っても腰にも満たない、やたらと派手な刺繍のある緑色の着物を一枚羽織っただけで、他には何も身につけてはいない。
惜しげもなく露出した素肌には汚れ一つなく、絵で見た天女のようだった。
「んで、こんな所に一人でやって来るおねーさんこそ何者なんだい?」
らんらんと輝く紅玉のような瞳が間近に迫る。
気恥ずかしさから私は顔を逸らして答えた。
「私の名前は早苗。……こっちこそ聞きたい。お前がなんでこんな場所にいる?」
「お前、じゃなくて名前で呼んでくれないかなぁ早苗おねーさん」
馴れ馴れしい笑みを浮かべて、玉藻はするりと私の腕にしがみつく。
その身体は私よりも小柄で、暖かい。しかし腕に込められたその力は意外と強く、名前で呼ぶまで離してくれそうにはなかった。
「……玉藻」
「おーおー素直でいいね! 次は笑顔で玉藻ちゃんと呼んで――冗談だから睨むなよー!」
「別に睨んでない。私は元々こういう顔」
「笑えよ早苗おねーさん!」
頬を両手で挟まれて、むにむに押し上げられた。
たったこれだけの会話なのに、とても疲れる。一体なんなんだろう、こいつは。
……なんなんだろう。心の中のつぶやきに、「まさか」という疑問が浮かび上がった。
「まさか、お前が疫病神なのか?」
玉藻は私の腕にしがみついたまま、きょとんと首をかしげた。
「あっれー何その言い方。もしかして僕、喧嘩売られてんのかなー?」
「……やっぱりそんなわけないか。お前みたいなのが神様だなんて」
心底私の言葉の意味がわかっていない様子の玉藻に、私は一から説明した。
里のこと、慣習のこと、巫女のこと、疫病神のこと――
ちなみに玉藻は聞き手としては最悪だった。
何度も話を遮られ、身体を撫でまわされ、興味なさそうに変な踊りを踊られたりで、何度その無駄に多いしっぽをひっこ抜いてやろうかと思ったことか。
ともあれ努力の甲斐あって、玉藻は事情を理解したようだった。
顎に手をあて、うーむと唸りながら、輝く九つのしっぽをはたきようにぱたぱたと上下させる。
何か考えているようだったが、その内容までは想像できない。
しばらく待つと、やがて玉藻は口を開いた。
「なーるほどね、でもそりゃ多分もう無理だぜ早苗おねーさん」
「無理? 何のこと?」
玉藻との会話でどっと疲れた私は、その言葉の意味を理解できなかった。
「何がって聞かれりゃあ、そりゃ“全部”だ。まぁそうだな――ところで僕の後ろを見てくれ、こいつをどう思う?」
どこか愉快そうな声色で玉藻が指差したのは、出会った時に立っていた、よくわからない炭のような物体の山。
「どうって言われても、ゴミの塊にしか見えない」
薄暗がりの中では、“それ”が一体何なのか、私には見当すらつかなかった。
正直にそう応えると、玉藻はけらけら笑って言った。
「ヒャッヒャ! ゴミの塊か! そりゃ傑作だぜ早苗おねーさん!」
玉藻がぱちんと指を鳴らした。
するとそれまで洞窟の中をゆらゆら揺れていた無数の炎が、光に群がる虫のように、私たちの周りに集まってきた。
一つ一つは淡い光が幾重にもなって、私が言った“ゴミの塊”を照らし出す。
蛇だ。無数の蛇が死んでいる。
一匹二匹どころではない。数十、いや数百にもなろうかという程の数の蛇が死んでいた。
よほどの炎に包まれたのか、その大半は炭化して、辛うじて蛇だということだけがわかる。
いや、蛇だけではない。百足や蜘蛛といった毒虫たちも、蛇と同様黒焦げになって死んでいる。
これは一体どういうことなのだろうか。
戸惑いながらも私は考えた。思い当たるようなことは何も――いや、一つだけある。
その時私はどんな表情をしたのだろうか。私の顔を覗き込む玉藻は、にやりと笑って口を開いた。
「この僕に喧嘩を売るたぁ、度胸だけは一流だったぜ? この“神様”はさァ」
神は死んだ。どうやらそういうことらしい。
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