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何かが足りない定期更新ゲーム雑記中心。 イタい? 中2病? 褒め言葉です。
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私が人として生き、そして死を迎えた切っ掛けをここに書き記す



願わくばこの決意が、私を壊したお前の心を縛りつけることを望む






 私の早苗という名は、『供え』という言葉からつけられたものだ。
 供え、供え物。御供え。私は生まれながらにして、神に捧げられる生け贄となる運命を背負っていた。
 最初に記しておくが、私は別にそんな私の境遇を不幸だとは思っていなかった。

 疫病の神を祀る私の里では、二十年に一度、その年の最初に生まれた娘を巫女とする風習が続いていた。
 巫女となった娘は俗世の穢れから遠ざけられて育てられ、十九の歳を迎えた日、神にその純潔な身を捧げる。そして穢れ無き身体を、後の二十年に里を襲う定めであった病魔に侵される。
 不浄を体現したかのような姿に成り果て、苦悶の末に命を終えることで、巫女の役目は遂行され、里には一時の平穏が訪れる。
 たった一人の巫女を身代わりとすることで、私の里は病魔の手から逃れ続けてきたのだという。
 実に合理的な話だ。



 十数代目の、巫女という名の生け贄である私は、外界から閉ざされた邸で何の生き甲斐も与えられずに育てられ、そして今日、命を終える日を迎えた。
 数少ない娯楽であった書物には、まるで死が恐るべきものであるかのような話がいくつもあった。
 しかし私が死に対し恐怖を抱くなど、あるはずもなかった。なぜなら私は死と共に生きてきたのだから。最初から私は生きてなどいなかったのだ。


 十九の歳を迎えた朝は、普段より少し早くに目が覚めた。
 特別な日だから、という理由ではない。いつにも増して騒がしい鳥たちの鳴き声に眠りを妨げられただけのことだった。
 障子越しの淡い朝日が照らす私の部屋には、家具の類はほとんどない。僅かな本と、小さな文机。あとは私と布団だけがある八畳間は、私そのものを表していたのかもしれない。

 目覚めたからといって何もすることはなかった。疫病の神が住むという山の方からは、山鳥たちの騒ぎ立てる声が続いていた。
 見慣れた天井の木目を見つめ続けながら、私は鳥の鳴き声に耳を傾け、世話係りの者がやって来るのを待った。
 例え死が約束されていようとも、私にとっては今日という日も、どこまでも平らであった日常の延長線上にあるものに過ぎないのだろう。
 その時の私はそう思っていた。


 供物となる巫女は、その身についた俗世の穢れを禊によって洗い流す。山から流れ出る水が行き着く小さな泉で、己を清め、その身を神に捧げるに相応しい物にするのだという。
 床を離れた私は朝餉を取ることもなく、白い襦袢に着替えさせられた。いかにもな死に装束を纏った私は、里の者に送られて、泉へと続く森の小道を歩いていた。
 冬の冷気に肌を撫でられ、私は少し歩みを速めた。小道の先は霧に包まれよく見えない。まるでこれから私がゆく先を暗示しているようだった。


 この時までだ。
 私が予想していた日常の延長線、最初から最後まで続いていた一本の道が二つに分かれてしまったのは。
 最初に感じたのは小さな違和感。しかしそれは、異変が起きていることを私に自覚させるほどに大きくなる。

 ――熱気?

 単なる気のせいだと思っていた、肌に感じる微かな温もり。人工物のかけらも無い真冬の山林にあるはずもないもの。
 それが確かに存在していた。泉へ到る道を進むにつれ、刺すような寒さがその勢いをひそめてゆく。
 行く手を包む濃い霧が、いつしか湯気に変わっていたなど、言ったところで誰が信じるものだろう。私の頭がおかしくなったという方が幾分か説得力がある。
 鈍っていた歩みを速め、私はほどなく泉に辿りつき、そして思わず声を漏らした。否、失ったの方がある意味では正解かもしれない。

「なに、これ……」

 禊の泉が温泉のようになっていた。ごうごうと湯気の立ち上る水面に、おそるおそる片足を浸らせると、馬鹿げたことに丁度良い湯加減だった。
 たちの悪い冗談としか言えないような光景に、私は言葉もなく立ち尽くすしかない。
 その時だ。

「乙女の入浴を覗き見ようとする命知らずは、誰だー!」

 突然響いた何者かの声に、さすがの私も取り乱したのは言うまでもない。
 そもそも誰かがいるという事態を、私は毛ほども予想していなかったのだ。
 誰だ、という問いにも、愚直に同じ質問を投げかけるのが精一杯だった。

「誰!?」
「あー? なんだその声、女の子かー」

 一つ前と比べて気の抜けたような声が聞こえた後に、じゃばじゃばと湯をかき分けて、小さな姿が近づいてくる。
 混乱し、生まれてはじめて動悸というものを経験しながら動けずにいる私の前に現れた声の主は、その口元をにやりと歪めた。
 私の瞳に映ったのは、見たこともない黄金色の髪をした一回りは年下の見知らぬ少女だった。白い湯気のベールの向こうで、ほおずきのような色の目が輝いている。
 そのにやりと笑う表情がとてもよく似合う彼女は、嬉しそうに声をあげた。

「よう! 寒い中ご苦労様だなおねーさん! 一風呂一緒にどーだい?」


 これまで聞いたこともない明るい声。それが私の、少女玉藻に抱いた最初の印象である。
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