何かが足りない定期更新ゲーム雑記中心。
イタい? 中2病? 褒め言葉です。
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恐怖を克服する、最大の方法が何なのか知ってるかい。
心が強くなればいい?
恐怖を壊してしまえばいい?
それとも恐怖から目を逸らすのかい?
どれもこれも抽象的だ。そんなに難しい質問じゃあないぜ。
簡単なことだ。自分自身が恐怖そのものになればいいんだよ。
全てを灰にする炎が怖い? 炎は炎を恐れない。
全てを巻き込む嵐が怖い? 嵐は嵐を恐れない。
狩られる側から狩る側になればいい。たったそれだけのことだ。
まーどういうことかって言えば、だ。逆に考えるんだよ。
死ぬのが怖くない奴ってのは、最初から死んでる奴なんだってさ。
……結局のところは、玉藻の言う通りなんだろう。
いや、言われるまでもなく理解はしていた。だから今、私は悩んでいる。
「んで、これからどーするんだい。早苗おねーさん」
「どーするってお前、どうしようも……」
「無駄死にするって言うんなら、僕が介錯してやるぜ?」
玉藻の小さな右手が松明のように炎を灯す。
神すら屠ったその業火は、きっと私を一瞬の内に灰へと変えるだろう。
「無駄死にって言うな」
「少なくとも、今早苗おねーさんが死ぬことには何の意味もないと思うけどなー」
「……それ、お前のせいでだけど」
「トゲのある言い方するなー。命の恩人なんだぜ、もっと優しく!」
多分、玉藻の言っていることは正しい。
今私が死んだところで、それは自己満足の無駄死ににしかならない。
命を捧げるべき神が消えた以上、もはや私の死には何の意味もないのだ。
「今さら里に帰るわけにもいかないし、行く当てなんてどこにも……」
「なんだ。僕と同じなだけじゃん」
「……は?」
「僕も早苗おねーさんと同じなのさ。帰る家なんてどこにもないし、帰りを待ってくれる
相手もいない。天涯孤独の自由の身って奴なんだぜ!」
それがどうしたと言わんばかりに玉藻は笑う。
私はまだ、玉藻のことを何も知らなかった。
だからと言って、知りたいとも思わなかった――けれど。
「玉藻」
「ん? どしたの?」
「お前は、何のために生きているの?」
私の問いかけに、玉藻は鼻で笑ってこう応えた。
』
「ジュ~リアちゃんっ、何読んでるの?」
「い゛にゃあっ!?」
いきなりしっぽを抱き締められ、ジュリアは奇妙な悲鳴を上げた。
一つのことに集中すると他に気が回らなくなるのが、自他共に認める彼女の欠点だ。
いつの間にかやって来た“母上”の気配に、日記の世界に没頭していたジュリアは全く
気付いていなかった。
「は、母上っ!? いきなり何するんですかっ!」
「うふふ。差し入れ持って行くって言ったでしょ?」
“母上”はジュリアのしっぽを気持ち良さそうにふかふかする。される側のジュリアに
とっては非常にくすぐったい。
差し入れらしいオレンジケーキと紅茶の乗ったトレイが、いつの間にかジュリアの前の
床に置かれていた。
「ひっ、ひぃっ! そこは、そこっ! 駄目ですってば、ちょっと! あ、あぁー!?」
「ん……ふさふさしてて気持ちいい…………あれ? 何これ」
「あぅ、あぅ……え? そ、それはっ!」
驚いた表紙に落としてしまった日記帳を、“母上”が拾い上げる。
「ジュリアちゃん、もしかしてえっちな本を見てた、とか……?」
「違いますっ! 父上と一緒にしないで下さいっ!」
「駄目。まだジュリアちゃんには大人の本はまだ早いと思うよ?」
「なんで息荒くして顔を赤らめるんですか!? そんな本じゃありませんから!」
別に見られて困るような内容でもない。……性的な意味では。
しかし面倒なことになるのは確実だった。
「ちょっとくらいいいでしょ? ……あら、本当に違うんだ。残念」
「残念って……ああもう勝手に見ないで下さいよ!」
ジュリアの制止を無視して、“母上”は日記帳をぺらぺら捲る。
読み飛ばしているわけではなく、速読術を身につけているのだ。
そして案の定、ページを捲るにつれ“母上”の穏やかな笑顔に影が差していく。
「…………」
「あ、あの。母上?」
ジュリアは“母上”のことを尊敬しているし、こういう立派な女性になりたいと思って
いる。
だが、完璧な人間などいない。素晴らしい“母上”にも欠点はいくつかあった。
“父上”と同じく性に奔放すぎる所がその一つ。
そして――。
「ねぇ、ジュリアちゃん。この早苗って人、一体誰?」
ぱたん、と日記を閉じた“母上”は素敵な笑顔を浮かべていた。
擬音で表すならばにこにこと、しかしその背後には黒い炎が渦を巻いているかのような
錯覚すら見える。
「さ、さぁ……この日記は掃除の途中で見つけたもので、私は何も……」
「そうなんだ。……私も何も知らなかった」
もう一つの欠点。それは、嫉妬深いという所。
と言ってもそのレベルは並ではない。並は並でも嫉妬の深さがマリアナ海溝並みなのだ。
実の娘のジュリアでさえ、時として嫉妬の対象になるほどである。
「…………」
「…………」
沈黙が続く。
やがて“母上”は日記帳を手にしたまま書庫の出口に歩き出した。
「それじゃあ、一休みしたら残りの掃除も頑張ってね」
何事もなかったかのような振る舞いが逆に恐い。
“母上”は普段は優しいが、一度怒ると“父上”とは比べ物にならないほど恐いのだ。
「えっと、あの……その本、どうする気なんでしょう」
恐る恐る尋ねると、応えは満面の笑顔と共に返ってきた。
「お焚上げするんだけど?」
「はぁ、そうなんですか――ってええっ!?」
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