何かが足りない定期更新ゲーム雑記中心。
イタい? 中2病? 褒め言葉です。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
名も無き遺跡島の地上、自然溢れる森の中で、九郎は自分の身に何が起きたのかを再確
認していた。
つい先ほど見た、談笑しながら歩く“自分自身”の姿。聞き込みで得た日時の情報。そ
して記憶と寸分違わない島の光景。
これらから九郎が導き出した答えはただ一つ。
(まさか、本当に過去の世界に戻ってくるなんて……)
ありえないと思いながらも、その答えを否定することができない。九郎が自宅の扉を抜
けて辿り付いたのは、まさしく言葉通りの“かつて自分が旅した島”だったのである。
(あー……なんか混乱してきました……)
何故こんなことになったのか、九郎には見当もつかない。例え妖怪としては桁外れの力
を持つ“父上”こと玉藻の力を以てしても、過去に戻るなどという芸当は不可能なのだ。
少なくとも九郎は時間を操る力を持った存在などに会ったことがない。
(ともかく、どうにかして事態を把握しなければなりませんね)
これ以上は考えても答えが出そうにない。だから考えない。考えても仕方のないことを
考えるのは時間の無駄といういつも通りの思考で、九郎はこの異常事態の原因を探るべく
行動を開始したのであった。
-*(注:やたらとややこしいです)-
九郎が過去の世界に戻り、彼女の体感時間で二日目の夜が来た。
昼間に襲い掛かってきた何者か――恐らくは“父上”だと九郎は思っている――のこと
も気がかりではあったが、今彼女にはどうしても確かめなければならないことが一つあっ
た。
実家で見るのとはまた違う星模様の空を、ひと気のないなだらかな丘の天辺で見詰めな
がら、九郎はその時を待つ。“母上”からクリスマスプレゼントに貰った懐中時計の蓋を
開くと、その長針と短針は揃って12の直前を指している。
もうすぐ日付が変わるのだ。
(さて、今日も“アレ”が訪れてくれるでしょうか)
昨日“それ”を体験した時は取り乱してしまった九郎だが、二度目ともなれば既に落ち
着きを保っている。
“それ”は彼女にとっては来なければ困るものなのだ。
(…………!)
思わず力を込めた手の中の、金縁の懐中時計の二つの針が12を示す。
瞬間、世界が咆哮を上げた。
重力が数倍にも跳ね上がったかのような衝撃が九郎を襲う。
大気がびりびりと震え、地鳴りのような雷鳴のような轟音が響き渡る。
世界が終わりを迎えたかのようなその現象は、しかし十秒と経たずに終わりを迎え、あ
たりには何事もなかったかのように静寂が戻った。
(…………ふぅ)
一息つき、九郎は草の上に腰を降ろした。手の中を見ると、懐中時計は何事もなかった
かのように時を刻んでいる。しかし異常はあった。
(やっぱり、そういうことですか)
彼女の懐中時計はただの時計ではない。優秀な魔具の作り手である“母上”が作った、
不思議な力を秘めたマジックアイテムなのである。
その無駄に多いオプションの一つが、“絶対時間の観測保護”。具体的に言えば、何が
あろうと九郎の故郷『七禍施町』を中心とした日付を示すカレンダー機能だ。
ただのカレンダー機能では面白くない、竜宮城に遊びに行っても門限を守れるようにと
の玉藻の提言とも冗談とも知れぬ言葉から生まれた、無駄な技術が込められたこのカレン
ダーは、意外なところでその真価を発揮していた。
九郎が過去の世界に戻り、先ほど日付が変わって三日目を迎えたことになる。しかし、
懐中時計が示す九郎の生まれ故郷の日付は、彼女が訪れたその時から一日たりとも過ぎて
はいなかったのだ。
時計の機能が正常であったとすれば、これが意味することはただ一つ。遺跡島を流れる
時間と九郎の故郷で流れる時間にズレが生じている。
例えるならば、“逆うらしま太郎”と言ったところだろうか。
九郎は今、過去の世界という名の竜宮城に居るのだ。その間、外の世界――彼女が元居
た世界の時間はどうやらほとんど流れていないらしい。
別の例えをすれば、某少年漫画の『精神と時の部屋』に居る状態なのだ。
仮に今、何らかの手段で過去から現代へと戻り、自宅で待つ“母上”に話しかけると、
「あら、忘れ物でもしたの?」と言われることだろう。
時間の知識には乏しい九郎であるが、今しがた体験した零時丁度に発生する謎の空間震
動は、未来からやってきた“九郎という特異点の時間”と、“過去の世界の時間”が同時
に存在することの矛盾を解消するための物であると推測した。
要は時間の断層・ズレの歪みを解消するための、地震ならぬ“時震”である。地震で言
えば震度六以上の規模であるにも関わらず、あの衝撃は木の葉一つ揺るがすことはない。
この時間においての“異常”である、九郎だけが感じるもののようだった。
また、逆に言えばこの時震がある限りは、“九郎の時間”は“過去の時間”の流れとは
切り離されたものであり、過去の世界で例え一年を過ごすことになったとしても、元の世
界における時間は全く経過していない――とどのつまり、九郎は“母上”を待たせている
ことの心配をしなくて済むと考えることができる。
九郎にとっての最大の心配事がソレであった。“父上”の不在で精神的に不安な状態の
“母上”を長い間一人にさせておくのはあまりにも危険すぎる。冗談抜きで世界を滅ぼす
ために行動しかねない。
(……まぁ、どれも希望的な考えに過ぎないんですけどね。そんなことより、そろそろど
うするべきなのか、はっきりしなければいけませんか)
九郎は未だに自分が何をするべきなのか迷っていた。自分の置かれた立場が徐々にわか
って来た彼女だが、それはそもそもの目的には全く結びつかないものなのだ。
とりあえず、九郎の当面の問題は二つある。
一つは当初の目的、“父上”こと玉藻の捜索だが、手掛かり一つ存在しない。怪しいの
は昼間に九郎を襲った狐面だが、後を追おうにも行方が知れない。
一つはどうやって元の世界に戻るのか。バックトゥザフューチャー的な展開である。し
かし生憎とこの世界にデロリアンは存在しない。そもそも過去に戻った経緯すら曖昧なの
にどうしろというのだろうか、というのが九郎の本音だ。
(うーむ……明日考えることにしますかぁ)
悩んだ末に九郎が取った選択肢は睡眠である。日付を跨いだということは、普段の九郎
の就寝時間がやってきたということだ。
星空を見ながら、九郎は隠れ家への道を歩き出した。
(父上も、私と同じこの夜空を見ているんでしょうか……)
胸の内に生まれた僅かな寂しさを、九郎は明日の朝食の想像で上書きした。
-*-
「よぉ! やーっとこさ見つけたぜ!」
遺跡の地下深く。未だ冒険者たちの姿が見えない深層の領域に、対峙する二つの影があ
った。
獰猛な笑みを浮かべ、その片方、玉藻は狐面の“敵”に語りかける。
「馬鹿娘のせいでお前を墓穴に叩き込むのが遅れちまったが、今日がお前の命日だ!」
並の者ならそれだけで死を予感する殺意を、その小柄な身体から漲らせる玉藻を前に、
狐面は怯まない。それどころか仮面の下で不敵に笑う。
「なるほど、あれは娘か」
「ああ、娘だ。僕には家族が居る。だからお前はここで死ね!」
玉藻の小さな掌に、山一つ焼き払う威力を秘めた炎が灯る。対する狐面の掌に灯った炎
もまた、九郎に不意打ちをかけた時とは比べ物にならない熱量を放っていた。
戦いの始まりはどちらから仕掛けたのかすらわからなかった。
爆音が響き渡り、衝撃波が木々を根こそぎ吹き飛ばす。大地に爪痕を残す妖怪同士の戦
いは、誰にも知られることなく続く。
認していた。
つい先ほど見た、談笑しながら歩く“自分自身”の姿。聞き込みで得た日時の情報。そ
して記憶と寸分違わない島の光景。
これらから九郎が導き出した答えはただ一つ。
(まさか、本当に過去の世界に戻ってくるなんて……)
ありえないと思いながらも、その答えを否定することができない。九郎が自宅の扉を抜
けて辿り付いたのは、まさしく言葉通りの“かつて自分が旅した島”だったのである。
(あー……なんか混乱してきました……)
何故こんなことになったのか、九郎には見当もつかない。例え妖怪としては桁外れの力
を持つ“父上”こと玉藻の力を以てしても、過去に戻るなどという芸当は不可能なのだ。
少なくとも九郎は時間を操る力を持った存在などに会ったことがない。
(ともかく、どうにかして事態を把握しなければなりませんね)
これ以上は考えても答えが出そうにない。だから考えない。考えても仕方のないことを
考えるのは時間の無駄といういつも通りの思考で、九郎はこの異常事態の原因を探るべく
行動を開始したのであった。
-*(注:やたらとややこしいです)-
九郎が過去の世界に戻り、彼女の体感時間で二日目の夜が来た。
昼間に襲い掛かってきた何者か――恐らくは“父上”だと九郎は思っている――のこと
も気がかりではあったが、今彼女にはどうしても確かめなければならないことが一つあっ
た。
実家で見るのとはまた違う星模様の空を、ひと気のないなだらかな丘の天辺で見詰めな
がら、九郎はその時を待つ。“母上”からクリスマスプレゼントに貰った懐中時計の蓋を
開くと、その長針と短針は揃って12の直前を指している。
もうすぐ日付が変わるのだ。
(さて、今日も“アレ”が訪れてくれるでしょうか)
昨日“それ”を体験した時は取り乱してしまった九郎だが、二度目ともなれば既に落ち
着きを保っている。
“それ”は彼女にとっては来なければ困るものなのだ。
(…………!)
思わず力を込めた手の中の、金縁の懐中時計の二つの針が12を示す。
瞬間、世界が咆哮を上げた。
重力が数倍にも跳ね上がったかのような衝撃が九郎を襲う。
大気がびりびりと震え、地鳴りのような雷鳴のような轟音が響き渡る。
世界が終わりを迎えたかのようなその現象は、しかし十秒と経たずに終わりを迎え、あ
たりには何事もなかったかのように静寂が戻った。
(…………ふぅ)
一息つき、九郎は草の上に腰を降ろした。手の中を見ると、懐中時計は何事もなかった
かのように時を刻んでいる。しかし異常はあった。
(やっぱり、そういうことですか)
彼女の懐中時計はただの時計ではない。優秀な魔具の作り手である“母上”が作った、
不思議な力を秘めたマジックアイテムなのである。
その無駄に多いオプションの一つが、“絶対時間の観測保護”。具体的に言えば、何が
あろうと九郎の故郷『七禍施町』を中心とした日付を示すカレンダー機能だ。
ただのカレンダー機能では面白くない、竜宮城に遊びに行っても門限を守れるようにと
の玉藻の提言とも冗談とも知れぬ言葉から生まれた、無駄な技術が込められたこのカレン
ダーは、意外なところでその真価を発揮していた。
九郎が過去の世界に戻り、先ほど日付が変わって三日目を迎えたことになる。しかし、
懐中時計が示す九郎の生まれ故郷の日付は、彼女が訪れたその時から一日たりとも過ぎて
はいなかったのだ。
時計の機能が正常であったとすれば、これが意味することはただ一つ。遺跡島を流れる
時間と九郎の故郷で流れる時間にズレが生じている。
例えるならば、“逆うらしま太郎”と言ったところだろうか。
九郎は今、過去の世界という名の竜宮城に居るのだ。その間、外の世界――彼女が元居
た世界の時間はどうやらほとんど流れていないらしい。
別の例えをすれば、某少年漫画の『精神と時の部屋』に居る状態なのだ。
仮に今、何らかの手段で過去から現代へと戻り、自宅で待つ“母上”に話しかけると、
「あら、忘れ物でもしたの?」と言われることだろう。
時間の知識には乏しい九郎であるが、今しがた体験した零時丁度に発生する謎の空間震
動は、未来からやってきた“九郎という特異点の時間”と、“過去の世界の時間”が同時
に存在することの矛盾を解消するための物であると推測した。
要は時間の断層・ズレの歪みを解消するための、地震ならぬ“時震”である。地震で言
えば震度六以上の規模であるにも関わらず、あの衝撃は木の葉一つ揺るがすことはない。
この時間においての“異常”である、九郎だけが感じるもののようだった。
また、逆に言えばこの時震がある限りは、“九郎の時間”は“過去の時間”の流れとは
切り離されたものであり、過去の世界で例え一年を過ごすことになったとしても、元の世
界における時間は全く経過していない――とどのつまり、九郎は“母上”を待たせている
ことの心配をしなくて済むと考えることができる。
九郎にとっての最大の心配事がソレであった。“父上”の不在で精神的に不安な状態の
“母上”を長い間一人にさせておくのはあまりにも危険すぎる。冗談抜きで世界を滅ぼす
ために行動しかねない。
(……まぁ、どれも希望的な考えに過ぎないんですけどね。そんなことより、そろそろど
うするべきなのか、はっきりしなければいけませんか)
九郎は未だに自分が何をするべきなのか迷っていた。自分の置かれた立場が徐々にわか
って来た彼女だが、それはそもそもの目的には全く結びつかないものなのだ。
とりあえず、九郎の当面の問題は二つある。
一つは当初の目的、“父上”こと玉藻の捜索だが、手掛かり一つ存在しない。怪しいの
は昼間に九郎を襲った狐面だが、後を追おうにも行方が知れない。
一つはどうやって元の世界に戻るのか。バックトゥザフューチャー的な展開である。し
かし生憎とこの世界にデロリアンは存在しない。そもそも過去に戻った経緯すら曖昧なの
にどうしろというのだろうか、というのが九郎の本音だ。
(うーむ……明日考えることにしますかぁ)
悩んだ末に九郎が取った選択肢は睡眠である。日付を跨いだということは、普段の九郎
の就寝時間がやってきたということだ。
星空を見ながら、九郎は隠れ家への道を歩き出した。
(父上も、私と同じこの夜空を見ているんでしょうか……)
胸の内に生まれた僅かな寂しさを、九郎は明日の朝食の想像で上書きした。
-*-
「よぉ! やーっとこさ見つけたぜ!」
遺跡の地下深く。未だ冒険者たちの姿が見えない深層の領域に、対峙する二つの影があ
った。
獰猛な笑みを浮かべ、その片方、玉藻は狐面の“敵”に語りかける。
「馬鹿娘のせいでお前を墓穴に叩き込むのが遅れちまったが、今日がお前の命日だ!」
並の者ならそれだけで死を予感する殺意を、その小柄な身体から漲らせる玉藻を前に、
狐面は怯まない。それどころか仮面の下で不敵に笑う。
「なるほど、あれは娘か」
「ああ、娘だ。僕には家族が居る。だからお前はここで死ね!」
玉藻の小さな掌に、山一つ焼き払う威力を秘めた炎が灯る。対する狐面の掌に灯った炎
もまた、九郎に不意打ちをかけた時とは比べ物にならない熱量を放っていた。
戦いの始まりはどちらから仕掛けたのかすらわからなかった。
爆音が響き渡り、衝撃波が木々を根こそぎ吹き飛ばす。大地に爪痕を残す妖怪同士の戦
いは、誰にも知られることなく続く。
PR
Comments to this article.