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何かが足りない定期更新ゲーム雑記中心。 イタい? 中2病? 褒め言葉です。
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 大勢は既に決していた。
 闘技大会の三回戦。熾烈と混迷を極めたその戦いも、決着の時が迫っている。それは誰
よりも、実際に戦う私たちがよく知る所だった。
 互いの場に立つのは味方が二人と敵一人。そしてもはや敵対する少女に、この状況を覆
すほどの力は残っていないだろう。
 とは言え、私たちに余裕が残されているわけではない。共に戦う仲間の息は荒く、更に
は激戦で磨り減った体力を、少女が呼び出した呪霊が奪う。

 激戦を繰り広げ、未だ立つのはおよそ戦いには似つかわしくない姿の者ばかり。
 その中で、情けないことに最も疲弊していたのはこの私だった。
 余力なんて無いに等しい。動くのが精一杯といったところ。
 だけど――。


「九郎さん、あんまり無理はしないで。あとは、ミオたちが、がんばるから……」
「まだですッ! く……ふぅ……はぁ……私は、まだ……!」
「そ、そうだよ……ここはぼくたちに任せてくれれば……!」


 正直なところ、二人の言葉に甘えたい気持ちが無いわけじゃなかった。
 同族の相手を打ち倒し、敵陣を掻き乱したことで最低限の役目は果たしたつもりだった
し、ここで引いても何も問題ないとは思う。

 だけど、私はまだ動ける。戦えるのだ。
 倒れるのは全て出し切ってからにしたかった。そう思う理由は、長きに渡って養われて
きた、私の負けず嫌いな気質が原因に他ならない。
 ここで退くその姿を父上に見られたら、なんと言われてからかわれるか。


「はぁぁぁっ!」


 意識を集中し、手にした刃に残った力の全てを注ぎ込む。
 そうして出来た私の“棘”は、見た目は何の変哲もない、棒手裏剣がたったの一つ。も
ちろん、ただの飛び道具とは一味違う、不思議な仕掛けが施されてはいるけれど。
 ともかくこれが最後の一矢。私は刃を握り締め、


「でぇぇぇぇぇ、りゃっっっ!」


 力の限り、ぶん投げた。
 ……そして倒れた。持てる力の全てを使い果たしたのだから当然だ、と、状況を冷静に
判断している自分が何だか馬鹿らしい。
 まぁ、後はミオさんと醒夢さんに任せても大丈夫だろう。

 程なくやって来た眠気の波に、抗う気力が残っていようはずもなく――。
 視界を闇が、覆い尽くした。




   -*-





 こうして源九郎は見事に散った。
 ほどなくして、戦いは九郎側の勝利にて幕が降りる――のだが、実は話はこれで終わら
ない。

 その一部始終を、誰にも知られず見ていた者がいたのである。
 闘技大会の戦闘フィールド外、遥か遠方の大木の巨枝に、木の葉に紛れて複雑な表情を
浮かべる少女が一人。
 さて、では見るからに怪しいそれが一体誰なのかと言うと。


「うわぁ……我ながら危なっかしい戦い方ですねー……」


 澄んだ湖のような色の髪から伸びる、小麦色のキツネ耳。無駄な脂肪の無いしなやかな
身体は絹のように白く、小振りなおしりの上からは稲穂のような太いしっぽが伸びている。
 そんな少女の名は、ジュリア=ティーローズ。
 この遺跡島においては源九郎と名乗る彼女は、今しがたまで激しい戦いを繰り広げてい
た源九郎のそっくりさんでも偽者でもドッペルゲンガーでもない。


「まぁ過ぎた事は仕方ありませんよね。これも一つの経験でしたし」


 戦いが終わり、“あちらの”九郎はミオに頬をむにむにと摘まれながら介抱されている。
 その微妙に間抜けな姿を見届けた“九郎”は、ため息をついて木から飛び降りた。ばさ
ばさと木の葉を掻き分け、建物四階ほどの高さからの着地を華麗に成功させた彼女は、耳
をぴくぴく動かして辺りの気配を探る。
 周囲に誰もいないことを確かめて、頭としっぽに乗った木の葉を落とす。落としながら
考えた。


 ――さて、この後どうしたものでしょうか……





   -*-





 時は少し巻き戻る。

 “我が家の不思議なダンジョン”こと、ジュリア宅の地下倉庫は、時空が捩れた魔空間
と化している。のは既知のこと。
 そしてその不思議なダンジョンから帰らない父上を連れ戻すため、意気揚々と倉庫の扉
を開けたジュリアであったのだが、一歩を踏み出して早々に、呆然として立ち尽くすこと
になってしまった。

 カカシのように立つジュリアの柔肌を撫でる風は、草木のにおいを運んでいた。
 彼女の髪色を濃くしたような青空からは穏やかな光が降り注ぎ、雲の合い間を縫うよう
に鳥たちが飛んでいる。
 踏みしめた足元には、紛れもない土の感触。そして道を行き交う多くの人々。
 間違いなくジュリアは屋外にいた。もちろん、外に出た覚えなどない。彼女が開いたの
は家の玄関ではなく、地下倉庫の扉だったはずである。


 ――えー……どういうことなんですか、これ……


 おまけにそこが、ジュリアの記憶の“とある場所”に酷似していたことが、彼女の混乱
を加速する。
 いくらなんでもそんな阿呆なことが、と思考をフル回転させるジュリアであったが、そ
の結論は変わらない。
 ここはかつて、“数年前”にジュリアが旅した名前も知らない遺跡島。多くと出会い、
多くを学んだその場所だった。


 ――何の魔力反応も違和感もありませんでした……ありえません……


 倉庫の扉を開けて一歩進んだと思ったら、何故か見知った島にいた。
 誰かに話しても意味が通じないだろうが、最も混乱しているのは当人のジュリアである。
まるで元から二つの場所が繋がっていたかのように、空間を跳躍する抵抗感も何もなく、
すんなりワープしてしまったのだから無理もない。
 ふと我に返って振り向くと、ここに来るとき通った扉は影も形も消えうせていた。どう
やら一方通行になっていたようだ。


 ――うーん。まぁ、よく考えれば何が起きても不思議じゃないんですよね


 繰り返すが、彼女が向かったのは“不思議なダンジョン”なのである。入るたびに地形
が変わる、といったレベルのものではない。お菓子の袋を開けてみたら、袋の内側に何か
の卵がびっしり張り付いていたとか、そういうレベルの不思議である。
 不気味なダンジョンとか不可解なダンジョンだとか、そんな名前の方が似合うくらいだ。

 気を取り直して“九郎”は辺りを見回した。
 ここが本当に“あの島”であるならば、彼女の名前はジュリアではなく“源九郎”にな
ってしまうのだ。


 ――しかしなんでまた、こんなことになったんでしょう。


 しっぽをゆっくりと上下させながら九郎は考える。
 生き物の思念は、時として他者を呼び寄せる。何らかの縁があって、自分がここにやっ
て来るという結果になったのでは。最初に浮かんだ推測を、いくらなんでもそれはないと、
九郎はすぐに放棄した。そんな怨念レベルの感情には、心当たりもないのである。
 かといって、別の考えがすぐさま浮かぶわけではない。


 ――偶然にしては作為的すぎます。もしかすると父上がこの島に……?


 まさか、という考えに手が届きそうになった、その時のことである。
 “ある者”を視界に映した九郎は、ほとんど反射的に物陰に身を潜め、気配を殺した。
息を止め、瞳に獣を宿らせた彼女の前を、奇妙な組み合わせの三人が歩いて行く。


「一勝一敗。今日の戦いはできれば勝っておきたいところですね」
「そうだね……そう言われると、き、緊張してきた……」
「ふるえているのは、寒いから? 今日の風は、冬の匂いが、少し強いの」
「え、えーと……これは武者震いさ!」
「ふふ、じゃあ今日は醒夢さんに期待しちゃいますよー?」


 ――なななんで“私”がいるんですかっ!?


 のほほんと笑う“自分の姿”に、九郎は仰天したのであった。
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