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何かが足りない定期更新ゲーム雑記中心。 イタい? 中2病? 褒め言葉です。
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 自主的な訓練は九郎の日課である。
 彼女が生きる妖の世界は、人の世界とは比べ物にならない程の実力社会だ。命の価値観
も違い、争い事も珍しくないそこにおいては、金よりも地位よりも力が求められる。
 数多の妖怪には人のような等しさもなく、一つの種族として生を受けたその時から力の
差異が存在している。虎が強いのは虎であるからという言葉のように、妖怪の強さの基準
はまず、種族そのものにあると言ってもいい。
 源九郎は人と妖狐の間に生まれた半妖であるが、妖怪としての特性は妖狐と変わらない。
 妖狐は純粋な力では鬼に及ばず、天狗のように自在に空を舞うこともできない。しかし
強い。何故だか理由が分かるか、と九郎は以前“父上”に聞かれたことがあった。
 九郎は問いに答えることはできなかった。そして、今でもその答えを出せずにいる。

 ――人としても妖狐としても、私は中途半端ですね……

 滝に身を打たれながら九郎は考える。
 修行と言えばこれぞ、という光景だ。ビルの5,6階ほどの高さから落下する水は、そ
のまま浴びると首の骨によろしくないので、常時その衝撃を術で軽減していなければなら
ない。地味に厳しい訓練だった。
 考え事をするくらいの余裕があるあたり、本来の滝行とは少々違うものではあるのだが、
当の九郎はそんなことは知らない。
 このところ戦いで勝利を得ていない九郎は悩んでいた。

 ――実戦は中々うまくいかないものです

 滝に打たれてみても、その悩みは流れない。
 九郎に足りないのは実力ではなく経験だった。もちろんそれは、一朝一夕でどうにかな
る類のものではない。

 ――慣れるしかないでしょうかねぇ……さて、そろそろ朝食の準備でも

 訓練を切り上げようとした九郎は、ふと流れ落ちる水に違和感を感じて留まった。
 何か様子がおかしいぞ、と思った次の瞬間、猛烈な悪寒を感じ、九郎は近くの岩場に飛
び移った。
 ずどん、と強烈な震動が空気を伝う。何が起きたのか理解する前に、九郎は臨戦態勢を
取った。耳をぴこぴこ動かし周囲の気配を探る。
 しかし辺りには何もいない。少なくとも今の九郎には、何かを察知することはできなか
った。
 息を止め、構えを解く――ように見せかけたが、不意に何者かが襲い掛かってくる様子
もない。舞い落ちる木の葉の音さえ見逃さない九郎の聴力をもってしても、聞こえるのは
ごうごうと唸る水音だけだった。

 ――何だったんでしょう、今のは……

 ようやく一息ついた九郎は、目の前に落ちてきた“ソレ”を見た。
 つい先ほどまで彼女が滝に打たれていた場所には、彼女の身長の三倍ほどになる大きさ
の氷塊が転がっていた。
 こんな場所に元々存在していたとは思えない、氷河の欠片のようなその氷は、九郎が直
前に感じた“水に溶け込んだ魔術の力”と関係があったとしか考えられなかった。
 とはいえ、九郎が出した結論は、何者かが自分の命を狙っているわけではないというも
のだった。いくらなんでもこんな雑な襲撃方法はありえないというのが彼女の結論だ。

 ――滝の上流で誰かが魔術の訓練でもしていたんでしょうか?

 色々と不可解な点が多すぎるが、考えても仕方のないことは考えないというのが彼女の
スタイルである。
 首をかしげて「ここで訓練するのはもう止めておこう」と思う九郎は、濡れた身体を炎
術で乾かして、朝食の準備に向かった。





   -*-





 時は少し巻き戻る。
 九郎が滝に打たれていたその頃、滝の上流に相対する二つの影があった。
「何者ですか、あなた!」
 影の一方、“九郎”は襲撃者に問いかける。
 自分が何をするべきなのかわからず、“自分自身”の修行姿をこっそり遠くから眺めて
いた“もう一人の源九郎”は、何者かにいきなり攻撃を受けたのだ。
 どうにか交わした不意打ちの炎弾は、爆音と共に川原の砂利と林の木々を抉り取り、そ
の威力が殺す気で打ち込まれたものだと九郎に理解させた。
 間に河川を挟み、戸惑う九郎の前に立つのは、山伏の装束に身を包み、狐の面を被った
小柄な姿。
 その背後には黄金に輝く九つの尾が揺らめき、同じく小判のように輝く髪からは、獣の
耳がにゅっと伸びている。
 九郎とさほど背丈の変わらないその襲撃者は、無言のまま片腕を上げ、轟と音をたてて
その掌に炎を宿らせた。
「ていうかノリで聞きましたけど父上ですよねッ!?」
 服装以外はどう見ても九郎の“父上”である襲撃者は、しかし彼女の問いには答えずに
燃え盛る手を振り上げた。空気が焦げる臭いがその威力を物語る。
 話し合いどころか一言も聞く気がない“敵”の態度に、ならばと九郎は応戦の型を取る。
事情は分からないが、悠長にしていては命がない。
「燃えちゃえよ……」
 ぼそりと呟き、襲撃者は軽く横に腕を払う。それだけの動作が圧倒的な破壊力を生んだ。
 津波のような熱波が九郎の視界を朱に染める。見てからでは対処の仕様がないその炎嵐
は、しかし九郎には届かない。
「はっ!」
 気合一喝、事前に己の妖力を流し込んでいた流水に、九郎は別の力を送る。
 刹那、流水が炎と化した。冥府を流れる火の川の如きその焔は、瞬く間に立ち上る炎の
壁となり、九郎に襲い掛かった炎嵐を飲み込んで行く。襲撃者の炎を吸収するかのように、
火の川は更に激しく燃え上がる。否、実際に吸収しているのだ。
「…………」
 己の術式の制御が奪われているにも関わらず、襲撃者は次の手を打とうともせずに焦熱
地獄のような光景を前に佇んでいた。
 炎のベール越しに見えたその姿を訝しげに思いながらも、九郎は反撃の手を緩めない。
(この敵が本当に父上ならば、この程度でどうにかできるとも思いませんがッ!)
 炎を伝う妖力の質を無理やりに捻じ曲げる。下手をすれば術が暴走し兼ねない危険な法
を、九郎は平然としてのけた。
 炎と氷の相反する術を、同一の物のように扱う九郎の能力である。
 その意味する所は、まさに二人を挟んで燃え盛る火炎に表れた。
「凍てつけ!」
 九郎が言い終えると同時に、彼女の言葉通りに炎の渦が“凍りついた”。自然界ではあ
りえない急激な温度変化が突風を生む。
 もちろん、それだけでは終わらない。彫刻のように固まった“凍て付いた炎”は、びし
りと地割れのような音を立てて砕け散る。刃物のように鋭利なその破片は、九郎の制御の
もとに弾丸となって一斉に襲撃者へと牙を向いた。
「お前は……」
 襲撃者の小さな呟きは誰にも届くことなく、その身体に氷の刃物が降り注ぐ。轟音と共
に川辺の地面が吹き飛び、土煙が舞った。
 この程度でどうにかできる相手ではないと“知っている”九郎は、くるりと舞い八つの
分身を作り出した。九郎の制御を離れた局地的な氷河は、まばたきする程の間もなく元の
水へと帰し、激しい飛沫をあげる。
 僅かに制御が乱れていた氷塊の一部が、溶けることなくどんぶらこと川を流れていった
のだが、そんなことを気にするほどの余裕は九郎にはなかった。
「…………」
 分身と共に反撃に備え続けていた九郎だが、おもむろに戦いの舞いを止め、分身を消滅
させた。収まった土煙の向こうには、襲撃者の姿は見られない。
(逃げた……?)
 土煙が上がった時点で、九郎は襲撃者がこの場を離脱したことに気付いている。油断を
誘っているのかと彼女は考えたが、矢のような速さで遠ざかって行く気配がそれを否定す
る。
(逃げる理由がわからないですね。そもそもあれは本当に父上だったんでしょうか?)
 “父上”と同質の力を持つ、正体不明の襲撃者の存在に、九郎は妙な胸騒ぎを覚えたの
であった。
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