何かが足りない定期更新ゲーム雑記中心。
イタい? 中2病? 褒め言葉です。
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朝になれば陽が登り、夜になれば月が輝く。
この理は、遺跡島においても例外ではない。
さて、では未来からやって来た九郎は島の夜を一体どこで過ごしているのだろうか。
答えは意外でもなんでもなく、偶然見つけた空き家に勝手に住み着いているというものであった。今の彼女は文無しなのだから無理もない。
ガスも電気もなかったが、幸いにも水道は生きていた。家具や小物はベッドくらいしかなかったが、仮に本来の住人が居たとしても、その時は素直に謝ればいいと九郎は考えている。
紛れもない不法侵入ではあるのだが、九郎はその環境に不満の欠片も感じてはいなかった。寝床が確保できただけでも充分だということだ。
そんな九郎は今夜もベッドの上で全裸になってぐっすりと――というわけではないようだった。
「ぅ……ぁぅ……ふ、ぁ……」
うなされている――にしては艶のある寝言が口から漏れ、無意識のうちにしっぽがばたばた動き、掛け布団を跳ね除ける。
閉じ込められていた熱気が拡がり、九郎自身の匂いが木の香りに仄かに混ざる。もちろん、それがどんな匂いであったか確認できる者はいない。
「んむぅ……ん、んん…………ん、くぅ……ふぅ……」
ごろごろと寝返りをうち、ふとももをくすぐったそうに擦り合わせ、耳は何かに反応しているかのようにぴくぴく動き続ける。
夜闇の中にもぞもぞと布と肌と毛が擦れる音が響き渡り、子猫が水を舐めとるような、粘性のある小さな水音を覆い隠していた。
どこか苦しそうな九郎の寝顔には、お風呂上りの火照った体のように朱が上っている。一体どんな悪夢を見ているのか。それは彼女自身にしかわからない。
「ぁ、ん…………ん、んんっ!」
九郎の寝返りは徐々に激しくなる。まるで何かから逃れるかのようにしっぽが激しく布団を叩いた。
そして、耳の先から尾の先端までをぴんっと強く力が籠もったかのように、くっと背を反らすように身体が動いたかと思うと――
「……! ……! ん、ぃぅ……っ…………ふぎゃ!?」
とうとうベッドからずり落ちた。
「んなぁっ!? な、なんですか敵襲ですか!?」
さしもの九郎も冷たい床に叩きつけられ、あっという間に夢から覚めた。
とはいえ半分寝惚けたままに、飛び起きその手に青白い炎を灯す姿は全裸なのも相まって、新手の変質者のように見えなくもない。
ぼうっと薄明かりに照らされる部屋の中で、春先のまだ冷たい空気がゆっくりと九郎の意識を覚醒させていった。
(……誰の気配も感じませんね。……いたた)
床に膝蹴りを喰らわせた脚をさすりながら、九郎はベッドの縁にこしかけた。
そのままぼんやりとしていると、夢の世界が徐々に遠ざかっていく。近づいてきたのは現実の感触である。主に、ふとももの間の奥の。
「……!? な、なななななっ! なんて夢見てるんですか私は!」
痺れに似たその感触に、今しがたまで夢の中で自分がされていた行為を思い出し、九郎はお世辞にも柔らかいとは言えないベッドにぼふぼふ頭を叩きつけた。
(なんで二日続けてあんな夢を……ストレス溜まってるんでしょうか、私……)
やがて疲れて、九郎は猫が伸びをするようなポーズのまま固まった。そしてふと、今日が何の日であったかを思い出す。
(そういえば今日は、最初の闘技大会が終わった日でしたよね……って、ああああああっ! まさか、今日はっ!)
自分の他にはただ一人しか知らない、九郎にとって特別な意味のある日。それが今日この日――或いは既に日付は過ぎているのかもしれない。
(うぁー……そのせいで私、あんな夢を見てしまったんでしょうか……)
うっかりと思い出してしまった九郎の身体に再び熱がこもりはじめる。
どうやら彼女の夜は、今日もまた昨日のように長くなりそうだった。
-*-
一方その頃、闘技大会を戦い抜いた源九郎は、当然のように布団の中で横になっていた。
しかし眠ってはいない。とてもではないが、眠れるような状況ではなかった。
(はぁ……大会じゃあんまり活躍できなかったなぁ)
今までの戦いが次々と脳裏に浮かぶ。そのほとんどが、自分がお荷物になっているものだというのだから、九郎にとっては心苦しい。
訓練と実戦の違い。己の未熟さ。自分の知らない戦い方。そのどれもを思い知らされ続けた戦いは、しかし無駄であったとは彼女は思わなかった。
(父上を見返すためにも、もっともっと力を身につけないといけませんね)
九郎に挫折している時間はない。この程度の事では挫折など不可能なほどに、彼女は昔から壮絶な体験をしてきたのである。
明日は今日よりも強い自分になるようにと、決意新たに九郎は夢の世界へ旅立とうとした。
――が。
(やっぱり、眠れるわけないですよねー)
ぼんやりと目を開く。
むずむずするおしりとしっぽを撫でながら、九郎は深いため息をついた。
(身体は疲れてるはずなのに、困ったものです)
というのも、九郎は今日、二度ほど疲労で昼寝をしていたのである。いつも通りの時間に寝ようとしたところで、眠れるものではない。
いつも以上に激しく動き回ったおかげで全身には疲労が溜まり、大会で傷を負った肩や、下腹部には未だズキズキした痛みが残っているようだ。
(……睡眠薬、貰えませんかね)
うつ伏せになって枕の匂いを吸い込みながら、九郎はぼんやりと今日一日を振り返り続けた。
(…………でも、これで私も少しは父上に近づけたのかな)
どうやらこの夜は、九郎にとってとても長い夜になるようであった。
-*-
遺跡島の奥深く。未だ誰も到達していない深層の領域。
地上と何一つ変わりないはずのその場所に、不思議なものが出来ていた。隕石が落下したかのような、巨大なクレーターである。
ボウルの形に抉り取られ、素肌を晒した大地のその中央に、仰向けになって外と変わりない青空を見つめる者がいた。
「まずいぞ、こりゃあ……」
大の字になって、土塗れの自慢のしっぽを扇のように広げた玉藻は、もちろん日向ぼっこを楽しんでいるわけではない。動きたくとも身体が動かないのである。
小さく口にした言葉には、普段の玉藻を知る者にとっては信じられないことだが、焦りの色が混ざっていた。
“消し飛んだ”右脚の再生にはそう時間がかかりはしない。しかし消耗し切った力を回復するには、半日程度費やしても全く足りるものではない。
(油断したつもりはない、が……なんだあいつは? 僕が負けた、だと?)
一昼夜戦い続けた狐面の姿が青空にふっと浮かぶ。
徹底的に破壊することを目的とした玉藻の術を平然と耐え、彼女にかつてないほどのダメージを与えた狐面は今――
(僕より先に死んでくれるなよ、ジュリア……)
この世界に来ているはずの娘を想い、力の回復に専念するため玉藻は静かに目を閉じた。
この理は、遺跡島においても例外ではない。
さて、では未来からやって来た九郎は島の夜を一体どこで過ごしているのだろうか。
答えは意外でもなんでもなく、偶然見つけた空き家に勝手に住み着いているというものであった。今の彼女は文無しなのだから無理もない。
ガスも電気もなかったが、幸いにも水道は生きていた。家具や小物はベッドくらいしかなかったが、仮に本来の住人が居たとしても、その時は素直に謝ればいいと九郎は考えている。
紛れもない不法侵入ではあるのだが、九郎はその環境に不満の欠片も感じてはいなかった。寝床が確保できただけでも充分だということだ。
そんな九郎は今夜もベッドの上で全裸になってぐっすりと――というわけではないようだった。
「ぅ……ぁぅ……ふ、ぁ……」
うなされている――にしては艶のある寝言が口から漏れ、無意識のうちにしっぽがばたばた動き、掛け布団を跳ね除ける。
閉じ込められていた熱気が拡がり、九郎自身の匂いが木の香りに仄かに混ざる。もちろん、それがどんな匂いであったか確認できる者はいない。
「んむぅ……ん、んん…………ん、くぅ……ふぅ……」
ごろごろと寝返りをうち、ふとももをくすぐったそうに擦り合わせ、耳は何かに反応しているかのようにぴくぴく動き続ける。
夜闇の中にもぞもぞと布と肌と毛が擦れる音が響き渡り、子猫が水を舐めとるような、粘性のある小さな水音を覆い隠していた。
どこか苦しそうな九郎の寝顔には、お風呂上りの火照った体のように朱が上っている。一体どんな悪夢を見ているのか。それは彼女自身にしかわからない。
「ぁ、ん…………ん、んんっ!」
九郎の寝返りは徐々に激しくなる。まるで何かから逃れるかのようにしっぽが激しく布団を叩いた。
そして、耳の先から尾の先端までをぴんっと強く力が籠もったかのように、くっと背を反らすように身体が動いたかと思うと――
「……! ……! ん、ぃぅ……っ…………ふぎゃ!?」
とうとうベッドからずり落ちた。
「んなぁっ!? な、なんですか敵襲ですか!?」
さしもの九郎も冷たい床に叩きつけられ、あっという間に夢から覚めた。
とはいえ半分寝惚けたままに、飛び起きその手に青白い炎を灯す姿は全裸なのも相まって、新手の変質者のように見えなくもない。
ぼうっと薄明かりに照らされる部屋の中で、春先のまだ冷たい空気がゆっくりと九郎の意識を覚醒させていった。
(……誰の気配も感じませんね。……いたた)
床に膝蹴りを喰らわせた脚をさすりながら、九郎はベッドの縁にこしかけた。
そのままぼんやりとしていると、夢の世界が徐々に遠ざかっていく。近づいてきたのは現実の感触である。主に、ふとももの間の奥の。
「……!? な、なななななっ! なんて夢見てるんですか私は!」
痺れに似たその感触に、今しがたまで夢の中で自分がされていた行為を思い出し、九郎はお世辞にも柔らかいとは言えないベッドにぼふぼふ頭を叩きつけた。
(なんで二日続けてあんな夢を……ストレス溜まってるんでしょうか、私……)
やがて疲れて、九郎は猫が伸びをするようなポーズのまま固まった。そしてふと、今日が何の日であったかを思い出す。
(そういえば今日は、最初の闘技大会が終わった日でしたよね……って、ああああああっ! まさか、今日はっ!)
自分の他にはただ一人しか知らない、九郎にとって特別な意味のある日。それが今日この日――或いは既に日付は過ぎているのかもしれない。
(うぁー……そのせいで私、あんな夢を見てしまったんでしょうか……)
うっかりと思い出してしまった九郎の身体に再び熱がこもりはじめる。
どうやら彼女の夜は、今日もまた昨日のように長くなりそうだった。
-*-
一方その頃、闘技大会を戦い抜いた源九郎は、当然のように布団の中で横になっていた。
しかし眠ってはいない。とてもではないが、眠れるような状況ではなかった。
(はぁ……大会じゃあんまり活躍できなかったなぁ)
今までの戦いが次々と脳裏に浮かぶ。そのほとんどが、自分がお荷物になっているものだというのだから、九郎にとっては心苦しい。
訓練と実戦の違い。己の未熟さ。自分の知らない戦い方。そのどれもを思い知らされ続けた戦いは、しかし無駄であったとは彼女は思わなかった。
(父上を見返すためにも、もっともっと力を身につけないといけませんね)
九郎に挫折している時間はない。この程度の事では挫折など不可能なほどに、彼女は昔から壮絶な体験をしてきたのである。
明日は今日よりも強い自分になるようにと、決意新たに九郎は夢の世界へ旅立とうとした。
――が。
(やっぱり、眠れるわけないですよねー)
ぼんやりと目を開く。
むずむずするおしりとしっぽを撫でながら、九郎は深いため息をついた。
(身体は疲れてるはずなのに、困ったものです)
というのも、九郎は今日、二度ほど疲労で昼寝をしていたのである。いつも通りの時間に寝ようとしたところで、眠れるものではない。
いつも以上に激しく動き回ったおかげで全身には疲労が溜まり、大会で傷を負った肩や、下腹部には未だズキズキした痛みが残っているようだ。
(……睡眠薬、貰えませんかね)
うつ伏せになって枕の匂いを吸い込みながら、九郎はぼんやりと今日一日を振り返り続けた。
(…………でも、これで私も少しは父上に近づけたのかな)
どうやらこの夜は、九郎にとってとても長い夜になるようであった。
-*-
遺跡島の奥深く。未だ誰も到達していない深層の領域。
地上と何一つ変わりないはずのその場所に、不思議なものが出来ていた。隕石が落下したかのような、巨大なクレーターである。
ボウルの形に抉り取られ、素肌を晒した大地のその中央に、仰向けになって外と変わりない青空を見つめる者がいた。
「まずいぞ、こりゃあ……」
大の字になって、土塗れの自慢のしっぽを扇のように広げた玉藻は、もちろん日向ぼっこを楽しんでいるわけではない。動きたくとも身体が動かないのである。
小さく口にした言葉には、普段の玉藻を知る者にとっては信じられないことだが、焦りの色が混ざっていた。
“消し飛んだ”右脚の再生にはそう時間がかかりはしない。しかし消耗し切った力を回復するには、半日程度費やしても全く足りるものではない。
(油断したつもりはない、が……なんだあいつは? 僕が負けた、だと?)
一昼夜戦い続けた狐面の姿が青空にふっと浮かぶ。
徹底的に破壊することを目的とした玉藻の術を平然と耐え、彼女にかつてないほどのダメージを与えた狐面は今――
(僕より先に死んでくれるなよ、ジュリア……)
この世界に来ているはずの娘を想い、力の回復に専念するため玉藻は静かに目を閉じた。
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-*-
「…………ぅー」
もぞもぞと身体を動かし、九郎はのそりと身体を起こした。
元々が癖の強い髪はボサリと跳ね、ところどころが逆立っている。寝起きだから仕方がないと言えば仕方がない。
(妙な時間に起きたなぁ……)
時刻はわからないが、少なくとも夜明けはまだ遠そうだった。辺りは真っ暗で、野鳥の鳴き声が聞こえてくる。
水でも飲もうと立った彼女は、一糸纏わぬ姿である。と言っても趣味ではない。単にパジャマがないだけだった。
(夜中に目が覚めるって、すごい久しぶり……)
妖狐の血を引く彼女は夜目が効く。電気も付けずにとことこと歩き、手探りすることもなく蛇口に手を伸ばした。
そして誰にも見られていないのをいいことに、流れる水に顔を近づけそのまま飲む。うつろな瞳で舌を伸ばして水を飲む姿は扇情的なことこのうえない。
水を飲み終え口元を手で拭うと、九郎は再び布団の上に倒れこんだ。
-*-
(…………?)
九郎の意識が再び眠りの海から浮かび上がってきたのは、息苦しさを感じたからだった。
まだはっきりとしない彼女の思考は、その原因が何なのか推測しようとすることさえできなかった。
だが――
「ん、ふ……んむぅ……」
(…………!?)
口の中に感じる甘いぬめりと顔を撫でる熱い吐息は、九郎の意識をアジのように釣り上げた。
カッと目を見開くと、そこには。
「は、母う、ん……ぁン……っ!」
九郎の言葉は続かなかった。その唇を塞がれたのだから無理もない。
誰にも許したことのない、彼女の桜色の唇を奪ったのはあろうことか――
(何コレ!? なんで“お母さん”がいるの!?)
九郎の舌にねっとりと舌を絡めてくるのは彼女の“母上”その人であった。
間近で見るその顔には、実の娘に向ける家族愛とは思えない別の感情、もっとどろどろとして濃厚なモノが満ちている。
普段なら絶対に九郎へは向けられない欲望が、流し込まれた唾液に混ざっていた。
(マズいマズいマズい何なのこの状況!?)
抵抗しようにも力が入らない。恋愛経験皆無の九郎にとって、そういった行為に熟練した“母上”のキスはあまりに刺激が強すぎた。
意識的なすらできないのは、“母上”が全く年の差を感じられない容姿をしているからだ。身体的には九郎の外見年齢よりほんの少しだけ上にしか見えないのである。しかもその姿は、同性でも見とれるほどに美しい。
両手をそっと掴まれて、されるがままに理性を溶かされていく。不思議と恐怖と拒絶が生まれないのは、巧みな技術あってのことなのだろうか。
「んちゅ……はぁ……ん、んんっ!」
「ぁぁ……ふ、ぅン……んむぅ…………ふぁ……」
長い口づけが終わり、そっと唇が離れた頃には、九郎は状況に対する疑問も抵抗もすっかりなくなっていた。
混ざり合った唾液が唇の端からとろりと溢れ、目には悲しみや恐怖から生じたのではない涙が輝いている。
息継ぎもできずにいた反動から、はぁはぁと荒い息を吐く九郎の身体を、“母上”の欲望に染まった瞳が見下ろしていた。その豊満な身体は、当然のように一糸も纏わずほんのりと甘い匂いを放っている。
(あー……まさか、私の初めてがこんなところで、なんて…………でも、まぁ、いいか……)
覚悟を決めた九郎は、“母上”の視線に自分の視線を絡ませた。気がつけば九郎自身も一切の肌着を身につけていなかった。心も身体も準備は既にできている。
その姿を見て優しく微笑むと、“母上”はその手を九郎のふとももに当てて、身体を重ねるようにゆっくりと覆い被さった。
そして、九郎の唇をそっと舐め、一言。
「可愛いです、玉藻さん……」
(玉藻…………ってあれ?)
“母上”が口にしたその名に疑問を抱いた瞬間、九郎の意識は再び闇に落ちた。
-*-
「……………………な、なんて夢を……」
闇の中で目を覚ました九郎は汗だくになっていた。
ドキドキどころではないほどに、胸が激しく震えている。
「…………あー!!!」
今しがた見た夢の衝撃に、頭を抱えて布団の上をごろごろごろ。
なぜあんな夢を見てしまったのかはわからないが、とんでもない内容だということだけはわかっていた。
妙に意識がはっきりとしていた夢だけに、自分があっさりと流されてしまったことが恥ずかしかった。
(目が覚めなかったら、今頃私は……私は……!)
どうなっていたのだろうか。自分で想像して、九郎は更に悶えることになった。
裸で寝ていたのは幸か不幸か。何にせよ、今この姿を誰かに見られれば、彼女は喜んで死を選ぶだろう。
ひとしきり悶え、心身ともに疲れきった九郎は三度布団に倒れこんだ。
(か、感覚が生々しすぎる……)
しかし今度は、身体の火照りが浮き袋のようになってしまって、彼女を眠りの海に沈めない。
(父上は毎晩あんな……って何考えてるんですか私は!)
おそるおそる触れてみた太股の内側がどうなっていたかは、彼女にしかわからない。
(…………うぅ、寝られるわけありません……)
もぞもぞと身体を動かしてみたところで、眠気は一向に訪れなかった。それどころか逆に意識が冴えてくる始末である。
(…………今度母上に会ったら、どういう顔をすればいいんでしょう……)
意を決して九郎はそっと指を舐め、ぴんと伸びた耳の先、しっぽの先まで布団に潜り、そして――
ともかくその夜は、九郎にとってとても長い夜になったのだった。
里帰りしてました。
で、戻る際に自室に保存してた昔のゲームを色々と持ち帰ってきたわけで。
中心はIFのPS作品。
PSで見ればおそらく史上最凶の作業ゲー、スペクトラルタワー2。
一万階の塔を延々と登り続けるゲームなんですけど、とりあえず9100階まで進めてみました。
所要時間は50数時間。九割くらいは同じ事を繰り返し続ける単調な作業です。
当時の私は何を思ってこの塔を登り続けてたんでしょう。ちょっと不安。
なにしろ、2000~8000階を登ってた頃の記憶がないんですよね……
まぁでも、昔のゲームってそんなもんですよね。ファミコンとかのは。
ついでに愛しき邪悪も三周しました。トリック・ブルー、ジェノバ、ティナの三名……
と言っても知らない人は誰だかわからず、知ってる人はティナはともかく他二つはなんやねんと思いそう。
でも、IF作品って妙な中毒がありますから……わかりますよね? ジェノバの良さとか。
一見卑屈で無能だけどその実は平和のため民のために以下略。
今回のメインは悠久幻想曲2ndです。
初代よりも2の方がキャラクター的に気に入ってます。アルベルト、トリーシャ、由羅あたりが特に。ヘキサもいいキャラしてますしね。
ある意味でこのゲームは私の青春なのかもしれません。
ゲーム雑誌の紹介を見てて、欲しいなと思って購入したらこれが大当たり。
相当な時間をプレイしたんですが、こうして今でもやり直したくなります。
そう思わせられるのは、個性的なキャラクターの魅力が最も大きいでしょうね。あとは意外と複雑なゲーム部分。
タイマンでマスクマン倒せた時はうれしかった……
ただ、続編は正直残念です。無理に3Dにしなくてもいいのに。悠久に限らず、PSの2D作品で3Dへの移行を試みて失敗したゲームって結構ないでしょうか。
今のハードなら、技術があればそこそこよくなりそうですけど……
悠久幻想曲は、その後の私の創作に色んな影響を及ぼしました。
キャラクターも結構増えてきましたし、そろそろ一つ、大きなものを作ってみようかな。
で、戻る際に自室に保存してた昔のゲームを色々と持ち帰ってきたわけで。
中心はIFのPS作品。
PSで見ればおそらく史上最凶の作業ゲー、スペクトラルタワー2。
一万階の塔を延々と登り続けるゲームなんですけど、とりあえず9100階まで進めてみました。
所要時間は50数時間。九割くらいは同じ事を繰り返し続ける単調な作業です。
当時の私は何を思ってこの塔を登り続けてたんでしょう。ちょっと不安。
なにしろ、2000~8000階を登ってた頃の記憶がないんですよね……
まぁでも、昔のゲームってそんなもんですよね。ファミコンとかのは。
ついでに愛しき邪悪も三周しました。トリック・ブルー、ジェノバ、ティナの三名……
と言っても知らない人は誰だかわからず、知ってる人はティナはともかく他二つはなんやねんと思いそう。
でも、IF作品って妙な中毒がありますから……わかりますよね? ジェノバの良さとか。
一見卑屈で無能だけどその実は平和のため民のために以下略。
今回のメインは悠久幻想曲2ndです。
初代よりも2の方がキャラクター的に気に入ってます。アルベルト、トリーシャ、由羅あたりが特に。ヘキサもいいキャラしてますしね。
ある意味でこのゲームは私の青春なのかもしれません。
ゲーム雑誌の紹介を見てて、欲しいなと思って購入したらこれが大当たり。
相当な時間をプレイしたんですが、こうして今でもやり直したくなります。
そう思わせられるのは、個性的なキャラクターの魅力が最も大きいでしょうね。あとは意外と複雑なゲーム部分。
タイマンでマスクマン倒せた時はうれしかった……
ただ、続編は正直残念です。無理に3Dにしなくてもいいのに。悠久に限らず、PSの2D作品で3Dへの移行を試みて失敗したゲームって結構ないでしょうか。
今のハードなら、技術があればそこそこよくなりそうですけど……
悠久幻想曲は、その後の私の創作に色んな影響を及ぼしました。
キャラクターも結構増えてきましたし、そろそろ一つ、大きなものを作ってみようかな。
名も無き遺跡島の地上、自然溢れる森の中で、九郎は自分の身に何が起きたのかを再確
認していた。
つい先ほど見た、談笑しながら歩く“自分自身”の姿。聞き込みで得た日時の情報。そ
して記憶と寸分違わない島の光景。
これらから九郎が導き出した答えはただ一つ。
(まさか、本当に過去の世界に戻ってくるなんて……)
ありえないと思いながらも、その答えを否定することができない。九郎が自宅の扉を抜
けて辿り付いたのは、まさしく言葉通りの“かつて自分が旅した島”だったのである。
(あー……なんか混乱してきました……)
何故こんなことになったのか、九郎には見当もつかない。例え妖怪としては桁外れの力
を持つ“父上”こと玉藻の力を以てしても、過去に戻るなどという芸当は不可能なのだ。
少なくとも九郎は時間を操る力を持った存在などに会ったことがない。
(ともかく、どうにかして事態を把握しなければなりませんね)
これ以上は考えても答えが出そうにない。だから考えない。考えても仕方のないことを
考えるのは時間の無駄といういつも通りの思考で、九郎はこの異常事態の原因を探るべく
行動を開始したのであった。
-*(注:やたらとややこしいです)-
九郎が過去の世界に戻り、彼女の体感時間で二日目の夜が来た。
昼間に襲い掛かってきた何者か――恐らくは“父上”だと九郎は思っている――のこと
も気がかりではあったが、今彼女にはどうしても確かめなければならないことが一つあっ
た。
実家で見るのとはまた違う星模様の空を、ひと気のないなだらかな丘の天辺で見詰めな
がら、九郎はその時を待つ。“母上”からクリスマスプレゼントに貰った懐中時計の蓋を
開くと、その長針と短針は揃って12の直前を指している。
もうすぐ日付が変わるのだ。
(さて、今日も“アレ”が訪れてくれるでしょうか)
昨日“それ”を体験した時は取り乱してしまった九郎だが、二度目ともなれば既に落ち
着きを保っている。
“それ”は彼女にとっては来なければ困るものなのだ。
(…………!)
思わず力を込めた手の中の、金縁の懐中時計の二つの針が12を示す。
瞬間、世界が咆哮を上げた。
重力が数倍にも跳ね上がったかのような衝撃が九郎を襲う。
大気がびりびりと震え、地鳴りのような雷鳴のような轟音が響き渡る。
世界が終わりを迎えたかのようなその現象は、しかし十秒と経たずに終わりを迎え、あ
たりには何事もなかったかのように静寂が戻った。
(…………ふぅ)
一息つき、九郎は草の上に腰を降ろした。手の中を見ると、懐中時計は何事もなかった
かのように時を刻んでいる。しかし異常はあった。
(やっぱり、そういうことですか)
彼女の懐中時計はただの時計ではない。優秀な魔具の作り手である“母上”が作った、
不思議な力を秘めたマジックアイテムなのである。
その無駄に多いオプションの一つが、“絶対時間の観測保護”。具体的に言えば、何が
あろうと九郎の故郷『七禍施町』を中心とした日付を示すカレンダー機能だ。
ただのカレンダー機能では面白くない、竜宮城に遊びに行っても門限を守れるようにと
の玉藻の提言とも冗談とも知れぬ言葉から生まれた、無駄な技術が込められたこのカレン
ダーは、意外なところでその真価を発揮していた。
九郎が過去の世界に戻り、先ほど日付が変わって三日目を迎えたことになる。しかし、
懐中時計が示す九郎の生まれ故郷の日付は、彼女が訪れたその時から一日たりとも過ぎて
はいなかったのだ。
時計の機能が正常であったとすれば、これが意味することはただ一つ。遺跡島を流れる
時間と九郎の故郷で流れる時間にズレが生じている。
例えるならば、“逆うらしま太郎”と言ったところだろうか。
九郎は今、過去の世界という名の竜宮城に居るのだ。その間、外の世界――彼女が元居
た世界の時間はどうやらほとんど流れていないらしい。
別の例えをすれば、某少年漫画の『精神と時の部屋』に居る状態なのだ。
仮に今、何らかの手段で過去から現代へと戻り、自宅で待つ“母上”に話しかけると、
「あら、忘れ物でもしたの?」と言われることだろう。
時間の知識には乏しい九郎であるが、今しがた体験した零時丁度に発生する謎の空間震
動は、未来からやってきた“九郎という特異点の時間”と、“過去の世界の時間”が同時
に存在することの矛盾を解消するための物であると推測した。
要は時間の断層・ズレの歪みを解消するための、地震ならぬ“時震”である。地震で言
えば震度六以上の規模であるにも関わらず、あの衝撃は木の葉一つ揺るがすことはない。
この時間においての“異常”である、九郎だけが感じるもののようだった。
また、逆に言えばこの時震がある限りは、“九郎の時間”は“過去の時間”の流れとは
切り離されたものであり、過去の世界で例え一年を過ごすことになったとしても、元の世
界における時間は全く経過していない――とどのつまり、九郎は“母上”を待たせている
ことの心配をしなくて済むと考えることができる。
九郎にとっての最大の心配事がソレであった。“父上”の不在で精神的に不安な状態の
“母上”を長い間一人にさせておくのはあまりにも危険すぎる。冗談抜きで世界を滅ぼす
ために行動しかねない。
(……まぁ、どれも希望的な考えに過ぎないんですけどね。そんなことより、そろそろど
うするべきなのか、はっきりしなければいけませんか)
九郎は未だに自分が何をするべきなのか迷っていた。自分の置かれた立場が徐々にわか
って来た彼女だが、それはそもそもの目的には全く結びつかないものなのだ。
とりあえず、九郎の当面の問題は二つある。
一つは当初の目的、“父上”こと玉藻の捜索だが、手掛かり一つ存在しない。怪しいの
は昼間に九郎を襲った狐面だが、後を追おうにも行方が知れない。
一つはどうやって元の世界に戻るのか。バックトゥザフューチャー的な展開である。し
かし生憎とこの世界にデロリアンは存在しない。そもそも過去に戻った経緯すら曖昧なの
にどうしろというのだろうか、というのが九郎の本音だ。
(うーむ……明日考えることにしますかぁ)
悩んだ末に九郎が取った選択肢は睡眠である。日付を跨いだということは、普段の九郎
の就寝時間がやってきたということだ。
星空を見ながら、九郎は隠れ家への道を歩き出した。
(父上も、私と同じこの夜空を見ているんでしょうか……)
胸の内に生まれた僅かな寂しさを、九郎は明日の朝食の想像で上書きした。
-*-
「よぉ! やーっとこさ見つけたぜ!」
遺跡の地下深く。未だ冒険者たちの姿が見えない深層の領域に、対峙する二つの影があ
った。
獰猛な笑みを浮かべ、その片方、玉藻は狐面の“敵”に語りかける。
「馬鹿娘のせいでお前を墓穴に叩き込むのが遅れちまったが、今日がお前の命日だ!」
並の者ならそれだけで死を予感する殺意を、その小柄な身体から漲らせる玉藻を前に、
狐面は怯まない。それどころか仮面の下で不敵に笑う。
「なるほど、あれは娘か」
「ああ、娘だ。僕には家族が居る。だからお前はここで死ね!」
玉藻の小さな掌に、山一つ焼き払う威力を秘めた炎が灯る。対する狐面の掌に灯った炎
もまた、九郎に不意打ちをかけた時とは比べ物にならない熱量を放っていた。
戦いの始まりはどちらから仕掛けたのかすらわからなかった。
爆音が響き渡り、衝撃波が木々を根こそぎ吹き飛ばす。大地に爪痕を残す妖怪同士の戦
いは、誰にも知られることなく続く。
認していた。
つい先ほど見た、談笑しながら歩く“自分自身”の姿。聞き込みで得た日時の情報。そ
して記憶と寸分違わない島の光景。
これらから九郎が導き出した答えはただ一つ。
(まさか、本当に過去の世界に戻ってくるなんて……)
ありえないと思いながらも、その答えを否定することができない。九郎が自宅の扉を抜
けて辿り付いたのは、まさしく言葉通りの“かつて自分が旅した島”だったのである。
(あー……なんか混乱してきました……)
何故こんなことになったのか、九郎には見当もつかない。例え妖怪としては桁外れの力
を持つ“父上”こと玉藻の力を以てしても、過去に戻るなどという芸当は不可能なのだ。
少なくとも九郎は時間を操る力を持った存在などに会ったことがない。
(ともかく、どうにかして事態を把握しなければなりませんね)
これ以上は考えても答えが出そうにない。だから考えない。考えても仕方のないことを
考えるのは時間の無駄といういつも通りの思考で、九郎はこの異常事態の原因を探るべく
行動を開始したのであった。
-*(注:やたらとややこしいです)-
九郎が過去の世界に戻り、彼女の体感時間で二日目の夜が来た。
昼間に襲い掛かってきた何者か――恐らくは“父上”だと九郎は思っている――のこと
も気がかりではあったが、今彼女にはどうしても確かめなければならないことが一つあっ
た。
実家で見るのとはまた違う星模様の空を、ひと気のないなだらかな丘の天辺で見詰めな
がら、九郎はその時を待つ。“母上”からクリスマスプレゼントに貰った懐中時計の蓋を
開くと、その長針と短針は揃って12の直前を指している。
もうすぐ日付が変わるのだ。
(さて、今日も“アレ”が訪れてくれるでしょうか)
昨日“それ”を体験した時は取り乱してしまった九郎だが、二度目ともなれば既に落ち
着きを保っている。
“それ”は彼女にとっては来なければ困るものなのだ。
(…………!)
思わず力を込めた手の中の、金縁の懐中時計の二つの針が12を示す。
瞬間、世界が咆哮を上げた。
重力が数倍にも跳ね上がったかのような衝撃が九郎を襲う。
大気がびりびりと震え、地鳴りのような雷鳴のような轟音が響き渡る。
世界が終わりを迎えたかのようなその現象は、しかし十秒と経たずに終わりを迎え、あ
たりには何事もなかったかのように静寂が戻った。
(…………ふぅ)
一息つき、九郎は草の上に腰を降ろした。手の中を見ると、懐中時計は何事もなかった
かのように時を刻んでいる。しかし異常はあった。
(やっぱり、そういうことですか)
彼女の懐中時計はただの時計ではない。優秀な魔具の作り手である“母上”が作った、
不思議な力を秘めたマジックアイテムなのである。
その無駄に多いオプションの一つが、“絶対時間の観測保護”。具体的に言えば、何が
あろうと九郎の故郷『七禍施町』を中心とした日付を示すカレンダー機能だ。
ただのカレンダー機能では面白くない、竜宮城に遊びに行っても門限を守れるようにと
の玉藻の提言とも冗談とも知れぬ言葉から生まれた、無駄な技術が込められたこのカレン
ダーは、意外なところでその真価を発揮していた。
九郎が過去の世界に戻り、先ほど日付が変わって三日目を迎えたことになる。しかし、
懐中時計が示す九郎の生まれ故郷の日付は、彼女が訪れたその時から一日たりとも過ぎて
はいなかったのだ。
時計の機能が正常であったとすれば、これが意味することはただ一つ。遺跡島を流れる
時間と九郎の故郷で流れる時間にズレが生じている。
例えるならば、“逆うらしま太郎”と言ったところだろうか。
九郎は今、過去の世界という名の竜宮城に居るのだ。その間、外の世界――彼女が元居
た世界の時間はどうやらほとんど流れていないらしい。
別の例えをすれば、某少年漫画の『精神と時の部屋』に居る状態なのだ。
仮に今、何らかの手段で過去から現代へと戻り、自宅で待つ“母上”に話しかけると、
「あら、忘れ物でもしたの?」と言われることだろう。
時間の知識には乏しい九郎であるが、今しがた体験した零時丁度に発生する謎の空間震
動は、未来からやってきた“九郎という特異点の時間”と、“過去の世界の時間”が同時
に存在することの矛盾を解消するための物であると推測した。
要は時間の断層・ズレの歪みを解消するための、地震ならぬ“時震”である。地震で言
えば震度六以上の規模であるにも関わらず、あの衝撃は木の葉一つ揺るがすことはない。
この時間においての“異常”である、九郎だけが感じるもののようだった。
また、逆に言えばこの時震がある限りは、“九郎の時間”は“過去の時間”の流れとは
切り離されたものであり、過去の世界で例え一年を過ごすことになったとしても、元の世
界における時間は全く経過していない――とどのつまり、九郎は“母上”を待たせている
ことの心配をしなくて済むと考えることができる。
九郎にとっての最大の心配事がソレであった。“父上”の不在で精神的に不安な状態の
“母上”を長い間一人にさせておくのはあまりにも危険すぎる。冗談抜きで世界を滅ぼす
ために行動しかねない。
(……まぁ、どれも希望的な考えに過ぎないんですけどね。そんなことより、そろそろど
うするべきなのか、はっきりしなければいけませんか)
九郎は未だに自分が何をするべきなのか迷っていた。自分の置かれた立場が徐々にわか
って来た彼女だが、それはそもそもの目的には全く結びつかないものなのだ。
とりあえず、九郎の当面の問題は二つある。
一つは当初の目的、“父上”こと玉藻の捜索だが、手掛かり一つ存在しない。怪しいの
は昼間に九郎を襲った狐面だが、後を追おうにも行方が知れない。
一つはどうやって元の世界に戻るのか。バックトゥザフューチャー的な展開である。し
かし生憎とこの世界にデロリアンは存在しない。そもそも過去に戻った経緯すら曖昧なの
にどうしろというのだろうか、というのが九郎の本音だ。
(うーむ……明日考えることにしますかぁ)
悩んだ末に九郎が取った選択肢は睡眠である。日付を跨いだということは、普段の九郎
の就寝時間がやってきたということだ。
星空を見ながら、九郎は隠れ家への道を歩き出した。
(父上も、私と同じこの夜空を見ているんでしょうか……)
胸の内に生まれた僅かな寂しさを、九郎は明日の朝食の想像で上書きした。
-*-
「よぉ! やーっとこさ見つけたぜ!」
遺跡の地下深く。未だ冒険者たちの姿が見えない深層の領域に、対峙する二つの影があ
った。
獰猛な笑みを浮かべ、その片方、玉藻は狐面の“敵”に語りかける。
「馬鹿娘のせいでお前を墓穴に叩き込むのが遅れちまったが、今日がお前の命日だ!」
並の者ならそれだけで死を予感する殺意を、その小柄な身体から漲らせる玉藻を前に、
狐面は怯まない。それどころか仮面の下で不敵に笑う。
「なるほど、あれは娘か」
「ああ、娘だ。僕には家族が居る。だからお前はここで死ね!」
玉藻の小さな掌に、山一つ焼き払う威力を秘めた炎が灯る。対する狐面の掌に灯った炎
もまた、九郎に不意打ちをかけた時とは比べ物にならない熱量を放っていた。
戦いの始まりはどちらから仕掛けたのかすらわからなかった。
爆音が響き渡り、衝撃波が木々を根こそぎ吹き飛ばす。大地に爪痕を残す妖怪同士の戦
いは、誰にも知られることなく続く。
自主的な訓練は九郎の日課である。
彼女が生きる妖の世界は、人の世界とは比べ物にならない程の実力社会だ。命の価値観
も違い、争い事も珍しくないそこにおいては、金よりも地位よりも力が求められる。
数多の妖怪には人のような等しさもなく、一つの種族として生を受けたその時から力の
差異が存在している。虎が強いのは虎であるからという言葉のように、妖怪の強さの基準
はまず、種族そのものにあると言ってもいい。
源九郎は人と妖狐の間に生まれた半妖であるが、妖怪としての特性は妖狐と変わらない。
妖狐は純粋な力では鬼に及ばず、天狗のように自在に空を舞うこともできない。しかし
強い。何故だか理由が分かるか、と九郎は以前“父上”に聞かれたことがあった。
九郎は問いに答えることはできなかった。そして、今でもその答えを出せずにいる。
――人としても妖狐としても、私は中途半端ですね……
滝に身を打たれながら九郎は考える。
修行と言えばこれぞ、という光景だ。ビルの5,6階ほどの高さから落下する水は、そ
のまま浴びると首の骨によろしくないので、常時その衝撃を術で軽減していなければなら
ない。地味に厳しい訓練だった。
考え事をするくらいの余裕があるあたり、本来の滝行とは少々違うものではあるのだが、
当の九郎はそんなことは知らない。
このところ戦いで勝利を得ていない九郎は悩んでいた。
――実戦は中々うまくいかないものです
滝に打たれてみても、その悩みは流れない。
九郎に足りないのは実力ではなく経験だった。もちろんそれは、一朝一夕でどうにかな
る類のものではない。
――慣れるしかないでしょうかねぇ……さて、そろそろ朝食の準備でも
訓練を切り上げようとした九郎は、ふと流れ落ちる水に違和感を感じて留まった。
何か様子がおかしいぞ、と思った次の瞬間、猛烈な悪寒を感じ、九郎は近くの岩場に飛
び移った。
ずどん、と強烈な震動が空気を伝う。何が起きたのか理解する前に、九郎は臨戦態勢を
取った。耳をぴこぴこ動かし周囲の気配を探る。
しかし辺りには何もいない。少なくとも今の九郎には、何かを察知することはできなか
った。
息を止め、構えを解く――ように見せかけたが、不意に何者かが襲い掛かってくる様子
もない。舞い落ちる木の葉の音さえ見逃さない九郎の聴力をもってしても、聞こえるのは
ごうごうと唸る水音だけだった。
――何だったんでしょう、今のは……
ようやく一息ついた九郎は、目の前に落ちてきた“ソレ”を見た。
つい先ほどまで彼女が滝に打たれていた場所には、彼女の身長の三倍ほどになる大きさ
の氷塊が転がっていた。
こんな場所に元々存在していたとは思えない、氷河の欠片のようなその氷は、九郎が直
前に感じた“水に溶け込んだ魔術の力”と関係があったとしか考えられなかった。
とはいえ、九郎が出した結論は、何者かが自分の命を狙っているわけではないというも
のだった。いくらなんでもこんな雑な襲撃方法はありえないというのが彼女の結論だ。
――滝の上流で誰かが魔術の訓練でもしていたんでしょうか?
色々と不可解な点が多すぎるが、考えても仕方のないことは考えないというのが彼女の
スタイルである。
首をかしげて「ここで訓練するのはもう止めておこう」と思う九郎は、濡れた身体を炎
術で乾かして、朝食の準備に向かった。
-*-
時は少し巻き戻る。
九郎が滝に打たれていたその頃、滝の上流に相対する二つの影があった。
「何者ですか、あなた!」
影の一方、“九郎”は襲撃者に問いかける。
自分が何をするべきなのかわからず、“自分自身”の修行姿をこっそり遠くから眺めて
いた“もう一人の源九郎”は、何者かにいきなり攻撃を受けたのだ。
どうにか交わした不意打ちの炎弾は、爆音と共に川原の砂利と林の木々を抉り取り、そ
の威力が殺す気で打ち込まれたものだと九郎に理解させた。
間に河川を挟み、戸惑う九郎の前に立つのは、山伏の装束に身を包み、狐の面を被った
小柄な姿。
その背後には黄金に輝く九つの尾が揺らめき、同じく小判のように輝く髪からは、獣の
耳がにゅっと伸びている。
九郎とさほど背丈の変わらないその襲撃者は、無言のまま片腕を上げ、轟と音をたてて
その掌に炎を宿らせた。
「ていうかノリで聞きましたけど父上ですよねッ!?」
服装以外はどう見ても九郎の“父上”である襲撃者は、しかし彼女の問いには答えずに
燃え盛る手を振り上げた。空気が焦げる臭いがその威力を物語る。
話し合いどころか一言も聞く気がない“敵”の態度に、ならばと九郎は応戦の型を取る。
事情は分からないが、悠長にしていては命がない。
「燃えちゃえよ……」
ぼそりと呟き、襲撃者は軽く横に腕を払う。それだけの動作が圧倒的な破壊力を生んだ。
津波のような熱波が九郎の視界を朱に染める。見てからでは対処の仕様がないその炎嵐
は、しかし九郎には届かない。
「はっ!」
気合一喝、事前に己の妖力を流し込んでいた流水に、九郎は別の力を送る。
刹那、流水が炎と化した。冥府を流れる火の川の如きその焔は、瞬く間に立ち上る炎の
壁となり、九郎に襲い掛かった炎嵐を飲み込んで行く。襲撃者の炎を吸収するかのように、
火の川は更に激しく燃え上がる。否、実際に吸収しているのだ。
「…………」
己の術式の制御が奪われているにも関わらず、襲撃者は次の手を打とうともせずに焦熱
地獄のような光景を前に佇んでいた。
炎のベール越しに見えたその姿を訝しげに思いながらも、九郎は反撃の手を緩めない。
(この敵が本当に父上ならば、この程度でどうにかできるとも思いませんがッ!)
炎を伝う妖力の質を無理やりに捻じ曲げる。下手をすれば術が暴走し兼ねない危険な法
を、九郎は平然としてのけた。
炎と氷の相反する術を、同一の物のように扱う九郎の能力である。
その意味する所は、まさに二人を挟んで燃え盛る火炎に表れた。
「凍てつけ!」
九郎が言い終えると同時に、彼女の言葉通りに炎の渦が“凍りついた”。自然界ではあ
りえない急激な温度変化が突風を生む。
もちろん、それだけでは終わらない。彫刻のように固まった“凍て付いた炎”は、びし
りと地割れのような音を立てて砕け散る。刃物のように鋭利なその破片は、九郎の制御の
もとに弾丸となって一斉に襲撃者へと牙を向いた。
「お前は……」
襲撃者の小さな呟きは誰にも届くことなく、その身体に氷の刃物が降り注ぐ。轟音と共
に川辺の地面が吹き飛び、土煙が舞った。
この程度でどうにかできる相手ではないと“知っている”九郎は、くるりと舞い八つの
分身を作り出した。九郎の制御を離れた局地的な氷河は、まばたきする程の間もなく元の
水へと帰し、激しい飛沫をあげる。
僅かに制御が乱れていた氷塊の一部が、溶けることなくどんぶらこと川を流れていった
のだが、そんなことを気にするほどの余裕は九郎にはなかった。
「…………」
分身と共に反撃に備え続けていた九郎だが、おもむろに戦いの舞いを止め、分身を消滅
させた。収まった土煙の向こうには、襲撃者の姿は見られない。
(逃げた……?)
土煙が上がった時点で、九郎は襲撃者がこの場を離脱したことに気付いている。油断を
誘っているのかと彼女は考えたが、矢のような速さで遠ざかって行く気配がそれを否定す
る。
(逃げる理由がわからないですね。そもそもあれは本当に父上だったんでしょうか?)
“父上”と同質の力を持つ、正体不明の襲撃者の存在に、九郎は妙な胸騒ぎを覚えたの
であった。
彼女が生きる妖の世界は、人の世界とは比べ物にならない程の実力社会だ。命の価値観
も違い、争い事も珍しくないそこにおいては、金よりも地位よりも力が求められる。
数多の妖怪には人のような等しさもなく、一つの種族として生を受けたその時から力の
差異が存在している。虎が強いのは虎であるからという言葉のように、妖怪の強さの基準
はまず、種族そのものにあると言ってもいい。
源九郎は人と妖狐の間に生まれた半妖であるが、妖怪としての特性は妖狐と変わらない。
妖狐は純粋な力では鬼に及ばず、天狗のように自在に空を舞うこともできない。しかし
強い。何故だか理由が分かるか、と九郎は以前“父上”に聞かれたことがあった。
九郎は問いに答えることはできなかった。そして、今でもその答えを出せずにいる。
――人としても妖狐としても、私は中途半端ですね……
滝に身を打たれながら九郎は考える。
修行と言えばこれぞ、という光景だ。ビルの5,6階ほどの高さから落下する水は、そ
のまま浴びると首の骨によろしくないので、常時その衝撃を術で軽減していなければなら
ない。地味に厳しい訓練だった。
考え事をするくらいの余裕があるあたり、本来の滝行とは少々違うものではあるのだが、
当の九郎はそんなことは知らない。
このところ戦いで勝利を得ていない九郎は悩んでいた。
――実戦は中々うまくいかないものです
滝に打たれてみても、その悩みは流れない。
九郎に足りないのは実力ではなく経験だった。もちろんそれは、一朝一夕でどうにかな
る類のものではない。
――慣れるしかないでしょうかねぇ……さて、そろそろ朝食の準備でも
訓練を切り上げようとした九郎は、ふと流れ落ちる水に違和感を感じて留まった。
何か様子がおかしいぞ、と思った次の瞬間、猛烈な悪寒を感じ、九郎は近くの岩場に飛
び移った。
ずどん、と強烈な震動が空気を伝う。何が起きたのか理解する前に、九郎は臨戦態勢を
取った。耳をぴこぴこ動かし周囲の気配を探る。
しかし辺りには何もいない。少なくとも今の九郎には、何かを察知することはできなか
った。
息を止め、構えを解く――ように見せかけたが、不意に何者かが襲い掛かってくる様子
もない。舞い落ちる木の葉の音さえ見逃さない九郎の聴力をもってしても、聞こえるのは
ごうごうと唸る水音だけだった。
――何だったんでしょう、今のは……
ようやく一息ついた九郎は、目の前に落ちてきた“ソレ”を見た。
つい先ほどまで彼女が滝に打たれていた場所には、彼女の身長の三倍ほどになる大きさ
の氷塊が転がっていた。
こんな場所に元々存在していたとは思えない、氷河の欠片のようなその氷は、九郎が直
前に感じた“水に溶け込んだ魔術の力”と関係があったとしか考えられなかった。
とはいえ、九郎が出した結論は、何者かが自分の命を狙っているわけではないというも
のだった。いくらなんでもこんな雑な襲撃方法はありえないというのが彼女の結論だ。
――滝の上流で誰かが魔術の訓練でもしていたんでしょうか?
色々と不可解な点が多すぎるが、考えても仕方のないことは考えないというのが彼女の
スタイルである。
首をかしげて「ここで訓練するのはもう止めておこう」と思う九郎は、濡れた身体を炎
術で乾かして、朝食の準備に向かった。
-*-
時は少し巻き戻る。
九郎が滝に打たれていたその頃、滝の上流に相対する二つの影があった。
「何者ですか、あなた!」
影の一方、“九郎”は襲撃者に問いかける。
自分が何をするべきなのかわからず、“自分自身”の修行姿をこっそり遠くから眺めて
いた“もう一人の源九郎”は、何者かにいきなり攻撃を受けたのだ。
どうにか交わした不意打ちの炎弾は、爆音と共に川原の砂利と林の木々を抉り取り、そ
の威力が殺す気で打ち込まれたものだと九郎に理解させた。
間に河川を挟み、戸惑う九郎の前に立つのは、山伏の装束に身を包み、狐の面を被った
小柄な姿。
その背後には黄金に輝く九つの尾が揺らめき、同じく小判のように輝く髪からは、獣の
耳がにゅっと伸びている。
九郎とさほど背丈の変わらないその襲撃者は、無言のまま片腕を上げ、轟と音をたてて
その掌に炎を宿らせた。
「ていうかノリで聞きましたけど父上ですよねッ!?」
服装以外はどう見ても九郎の“父上”である襲撃者は、しかし彼女の問いには答えずに
燃え盛る手を振り上げた。空気が焦げる臭いがその威力を物語る。
話し合いどころか一言も聞く気がない“敵”の態度に、ならばと九郎は応戦の型を取る。
事情は分からないが、悠長にしていては命がない。
「燃えちゃえよ……」
ぼそりと呟き、襲撃者は軽く横に腕を払う。それだけの動作が圧倒的な破壊力を生んだ。
津波のような熱波が九郎の視界を朱に染める。見てからでは対処の仕様がないその炎嵐
は、しかし九郎には届かない。
「はっ!」
気合一喝、事前に己の妖力を流し込んでいた流水に、九郎は別の力を送る。
刹那、流水が炎と化した。冥府を流れる火の川の如きその焔は、瞬く間に立ち上る炎の
壁となり、九郎に襲い掛かった炎嵐を飲み込んで行く。襲撃者の炎を吸収するかのように、
火の川は更に激しく燃え上がる。否、実際に吸収しているのだ。
「…………」
己の術式の制御が奪われているにも関わらず、襲撃者は次の手を打とうともせずに焦熱
地獄のような光景を前に佇んでいた。
炎のベール越しに見えたその姿を訝しげに思いながらも、九郎は反撃の手を緩めない。
(この敵が本当に父上ならば、この程度でどうにかできるとも思いませんがッ!)
炎を伝う妖力の質を無理やりに捻じ曲げる。下手をすれば術が暴走し兼ねない危険な法
を、九郎は平然としてのけた。
炎と氷の相反する術を、同一の物のように扱う九郎の能力である。
その意味する所は、まさに二人を挟んで燃え盛る火炎に表れた。
「凍てつけ!」
九郎が言い終えると同時に、彼女の言葉通りに炎の渦が“凍りついた”。自然界ではあ
りえない急激な温度変化が突風を生む。
もちろん、それだけでは終わらない。彫刻のように固まった“凍て付いた炎”は、びし
りと地割れのような音を立てて砕け散る。刃物のように鋭利なその破片は、九郎の制御の
もとに弾丸となって一斉に襲撃者へと牙を向いた。
「お前は……」
襲撃者の小さな呟きは誰にも届くことなく、その身体に氷の刃物が降り注ぐ。轟音と共
に川辺の地面が吹き飛び、土煙が舞った。
この程度でどうにかできる相手ではないと“知っている”九郎は、くるりと舞い八つの
分身を作り出した。九郎の制御を離れた局地的な氷河は、まばたきする程の間もなく元の
水へと帰し、激しい飛沫をあげる。
僅かに制御が乱れていた氷塊の一部が、溶けることなくどんぶらこと川を流れていった
のだが、そんなことを気にするほどの余裕は九郎にはなかった。
「…………」
分身と共に反撃に備え続けていた九郎だが、おもむろに戦いの舞いを止め、分身を消滅
させた。収まった土煙の向こうには、襲撃者の姿は見られない。
(逃げた……?)
土煙が上がった時点で、九郎は襲撃者がこの場を離脱したことに気付いている。油断を
誘っているのかと彼女は考えたが、矢のような速さで遠ざかって行く気配がそれを否定す
る。
(逃げる理由がわからないですね。そもそもあれは本当に父上だったんでしょうか?)
“父上”と同質の力を持つ、正体不明の襲撃者の存在に、九郎は妙な胸騒ぎを覚えたの
であった。